0211事変

自分の置かれた状況に頭痛がする、日本は溜息をついた。大英帝国時代、普段の態度は基本横柄で高慢なものだったが同盟相手である自分には時折その優しさを垣間見せることもあった、けれど敵である者には手段を選ばず破滅させるよう手を回し情けも容赦も一切かけない冷酷な部分も持ち合わせていたと記憶している、彼の言葉からすれば今自分はスパイだと疑われているらしいこのままでは斬って捨てられるのが関の山だ、だが本当の事を話してしまえば過去改変の度合いが今以上に大きくなる可能性が高い、自分がこの時代に来てしまったことによって既に改変は起こっているのだからこれ以上過去に手を加えたくない、だとすれば自分はスパイだと疑われたままこの屋敷から脱出した方が改変がより少なくて済むのではないだろうか、考えて日本は床に伏せたままの状態から身体を起こすべく手を床につけようと動かしたが両腕は背中にある状態から微動だにしない、腕に何か鎖のようなものが巻き付いているようだった

「馬鹿だな、突然俺の部屋に現れたスパイと思しき得体の知れない奴をそのままにしておくと思うか?拘束具位嵌めるに決まってるだろ」

大英帝国は現在のイギリスより少しだけ若く見えるその顔を酷薄に歪めて笑う、意識を失っている間腕を拘束されているのは予想外だったこれでは例え逃げれたとしてもすぐ捕まってしまう、焦る日本は俯いてこれからのことを思案しようとしたが掴まれた顎をぐい、と持ち上げられて中断させられた、顔を近づけて相手の顔を値踏みするかのように大英帝国は眺めるとその緑の瞳を細める

「スパイは原則見つけ次第始末するんだが…殺すには惜しいな」

言って大英帝国は日本の肩を掴み床の上に仰向けにさせるとその上に覆いかぶさり顔の両横に掌をつく

「いっそ屋敷の中で飼うのも一興か、なあ?」

するり、と頬を撫でそのまま指を這わせた大英帝国は肌の弾力を楽しむように鎖骨を撫でる、例え未来で恋人になる相手だとしても現在の日本の恋人は現代のイギリスであり目の前の大英帝国ではない、妖しげな手つきで己の身体に指を這わせる相手を睨み付けると日本は憮然とした様子で口を開く

「悪趣味な、謹んでお断り申し上げますのでこの手を離して頂けますか」

現在その命を自分に握られているというのに全く物怖じしない様子できっぱりと言ってのけた相手に大英帝国は一瞬目を丸くした後顔を俯かせると小刻みに震える、くく、と噛み殺しきれない笑いが喉奥から込み上げ遂に大英帝国は肩を震わせて大笑いした、いきなり笑い出した相手に呆気にとられた日本は暫し相手の動向を見守る、一頻り笑った後大英帝国は至極愉快そうに笑みを象った表情のまま日本を見下ろす

「この大英帝国にそんな口をきいた奴はお前が初めてだ、益々気に入ったぞ」

益々気に入られてしまったと日本は内心うなだれた、一度気に入った相手にはとことん入れ込むのがイギリスだこれはまた厄介なことになりそうであった、笑いの発作がおさまった大英帝国は一気に獲物を見る目つきとなり日本を見詰めている

「嫌でもイエスって言わせてやるよ」

案の定である
翠玉のような瞳は日本を捕えて離さない、大英帝国は相手が抵抗出来ないのを良いことに上衣を乱すと露わになった身体に驚いた表情を浮かべる

「お前、男だったのか…」

初見では歳はおろか性別さえ間違われる見た目をしている日本なので仕方のないことだが間違われた当の本人は酷く気分を害したようだった。大英帝国は相手の性別を確認し少しだけ逡巡したがそれも一瞬のことで

「今まで男にそういう興味はなかったが…お前ならいけそうだ」

外気に晒された身体に自分の芯が疼くのを感じて大英帝国は瞬時に切り替える、この際男だろうが女だろうがどうでもいい性別など些細なことだ、欲情した瞳で日本の白い肌を眺めた大英帝国は衝動に突き動かされるままなだらかな線を描く鎖骨に齧り付く、形を確かめるように舌で舐めれば下の身体がぴくりと動くものだからたまらない、その反応に笑みすら浮かべ大英帝国は昂揚した気分のまま白い肌をきつめに吸ってそこから顔を離す、意図した通りそこには赤い印が刻まれていて支配欲に背筋が震える、白い肌に己の付けた赤い印がよく映えて見えることも彼の気を良くさせた

「病み付きになりそうだな」

酔ったような上擦った声だった、それから大英帝国は再び肌に口を寄せ印を至るところに付けながら相手の身体の線をなぞるように脇腹やふとももを撫で上げる、大英帝国の行動にしきりに抵抗していた日本だったがその手付きに不意にイギリスとの行為を思い出して抵抗が緩む、その隙を男が逃す筈もなく行為は次第に激しくなっていった、互いの吐息と時折高い水音のみが部屋に響く、聴覚を犯すようなそれらに触発され日本の身体に熱が篭る、それに反比例して抵抗する気力はどんどん弱まっていった

「は、そんなに煽るなよ」
「煽って、など…」
「そうか?凄く物欲しげな顔してるぞ、お前」

カリ、と耳を食まれて日本の身体がびくん、と跳ねる。顕著なその反応にぴんときた大英帝国は性質の悪い笑みを浮かべ執拗にそこばかりを攻める、耳たぶに歯を立てた後凹凸を舐め上げ最後にくちゅりと孔に舌先を入れられた日本はたまらずに声を押し殺しきれず悲鳴を上げた

「耳、弱いんだな」

吐息混じりに耳に吹き込むように囁けば触れてもいないのに相手の身体が跳ねる 、執拗に弱い所ばかり触れてくる相手に抗議するように日本は無言で睨みつけるが薄らと涙の膜が張った瞳で睨みつけられても逆効果というものだ、火が点いたように熱い身体を持て余しながら大英帝国はついに日本の下肢へと手を伸ばす、その時流石にこれ以上は不味いと大英帝国に流されそうになっていた日本は我を取り戻し身を捩るが相手の手は止まらない冷や水を浴びせられたかのように急速に身体から熱が引いていく抜けだそうとしても拘束は強固で引き剥がそうとしても相手の方が力が強いまさに八方塞がりの状態だった。だが人も国も追い詰められると何をするか分からない、焦るあまり頭が真っ白になった日本だが考えるより先に体が無意識のうち動いた、腹筋を使って上体を起こすと唐突な日本の行動に動きを止めた大英帝国の頭目がけて一気に己のそれをぶち当てる

ゴッ!!

先程の淫靡な雰囲気を一掃する鈍い音が部屋に響く、まさか相手から頭突きをくらうと思っていなかった大英帝国はもろにそれを食らってしまい日本の上で意識を飛ばした、それから少しして日本の身体が煙に包まれる、どうやらイギリスの魔法の制限時間が来たらしい、意識を失った大英帝国を一人残し日本は自分の時代へ帰っていったのだが現在の日本は衣服を乱され体の至る所にキスマークを付けられた状態だ、その姿のまま現代へと帰還したのだ騒ぎになるのは目に見えていた





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倒れていた大英帝国は数十分後目を覚ます、不意に先程のことを思い出し大英帝国は周りを見渡したが自分が欲した相手は居ないばかりか彼が居た痕跡ですら何も残っていない、まさに煙のようにあの不思議な男は消えてしまっていた

「夢、だったのか…?」

夢にしては生々しい感触を伴っていたがそれが現実に起こったことだと証明する手立ては何もない、だが彼の姿は大英帝国の記憶の中にしっかり刻み込まれている、夜のような黒を纏った美しい男だったその容姿もさることながら物怖じしない気高さを大英帝国はいたく気に入っていた、男と会ったことを夢だとも現実だとも断定しきれない、だが先程のことがもし現実だったとしたら

「絶対に見つけだしてやる」

この執念が功を奏すのは数十年後、夢と同じ風貌の青年を大英帝国は東洋で見つけることとなる、何の因果か彼は自分と同じ国でまさにその時同盟相手を探していた男が彼に同盟を申し込むのは至極当然のことだった





今回の出来事で彼らの居た未来は変わらない何故ならばこの出来事踏まえた上で今の未来があるからだ、計らずとも今回の出来事によって彼らは同盟を組みそうして現在恋人同士となった、あの同盟時代が無ければこういった関係になるだろうことはなかったかもしれない二人である、日本にとっては災難なこの事件も後にかけがえのない存在を得るきっかけになるとすればこれは奇禍ではなく彼らにとって僥倖だと言えるのではないだろうか





2012.02.12