「最初から・・・となるとアーサーさんに告白されてキスされた所からですかね」
あの時の事を思い出すように本田は観覧車の窓越しに遠くを見て視線を俺の顔へと移す
「あの時は本当に驚かされました」
くすりと綺麗に笑われてどきりとする、本田に謝ろうとしたら首を振られて制されたもう謝らなくて良いと言って本田は続ける
「しばらく呆然として・・・アーサーさんの言葉の意味を考えてました、好き、だけなら友人としての好きもあり得ますがその後キスされた事を考えると友人としてではなくそういう対象として私を好きなのだと・・・普通ならそう考える所ですがアーサーさんはあの時自力では真っ直ぐ歩けない位体調が悪かったでしょう?だから私もしかしたらこれは偶然起こった事故のようなものでアーサーさんが私の事を好きなのか正直ここでは半信半疑というか、どう捉えて良いものか悩んでいました」
困ったように笑って本田は言う、軽い言い方だったがそこに僅かに滲んだ疲労の色に相当考え込んでいた事が伺える
「もうあなたなら分かっていると思いますが私は今までアーサーさんの事をそのような目で見た事はありません・・・でした、けれどその時ふと思ったんです、だったら何故自分は同性にキスされても嫌じゃなかったんだろうって?
普通なら嫌悪感と言っては言い過ぎでしょうが、同性とキスなんて気持ちの良いものではない筈です、でも私はあの時全くそう言った感情は抱かなかった、自分でも不思議な位に。友人としか見ていないのにそれ以上の事をされても平気って可笑しいでしょう、だから私、ちゃんとアーサーさんに私の事をどう思っているのか聞いた上で自分はそれに対して何を思うのか知りたかった、だから体育館裏であなたの『好き』という言葉が本心かどうか聞いたんです」
「そう、だったのか・・・」
本田がそんな事を考えていたなんてちっとも知らなかった、キスされても嫌じゃなかったと言われて素直に嬉しい、つい口元が緩みそうになるのを俺は掌を当てて隠す
「・・・で、本田は俺の本心を聞いて結局どうだったんだ?」
「・・・難しいですね・・・正直・・・」
言葉を探す様に本田は少し俯いた
「色々と思う所はありましたがそれでも一番強く感じたのは嬉しさ、でした・・・あの時アーサーさんに改めて好きだと言われて、正直私、嬉しかったんです、でもそういう対象としてアーサーさんを見ていないのにどうして私嬉しいのか分からなくて・・・あの時はもう頭がいっぱいいっぱいでした、だから実の所アーサーさんが何か言っているのは分かりましたが何を言っているのか聞きとる所までは出来ていないような状態だったのでアーサーさんに色々勘違いさせてしまいました、すみません」
「そんな、本田は悪くないだろ・・・お前こそ謝らなくて良い」
「・・・ありがとうございます」
さっきと立場が逆になった自分達がなんだかおかしくて本田も俺も少し笑った
「この気持ちが一体何なのか・・・私は確かめたかった、アーサーさんが気持ちを伝えてくれたのに自分が伝えないなんてずるいでしょう、けれど私は自分の気持ちが分からないから伝えようがない、だから確かめたかったんです、きっとアーサーさんと過ごせばそれも分かると思って選んだのがここです、以前遊園地の絶叫系の乗り物がリニューアルする話をした時アーサーさんも面白そうだなと言っていたので、丁度いいと思って・・・と言っても本音を言えばここを選んだ理由は自分がその乗り物に乗ってみたかったという事が大きいのですが・・・」
だから本田は俺を遊園地連れて来たのかと納得した、最初から今まで本田が無表情だったのもすべて自分の気持ちと向き合っていたのならあまり楽しめなかったに違い無い、開き直ってこの状況を満喫していた自分とは違って。本田の言葉が俺への気遣いを悟らせないようにする為のものだと言う事は十二分に理解出来ていた
「いや俺は充分楽しませて貰ったから気にするな」
「なら良かったです」
その笑顔にああ、好きだなと改めて思った、もうこの想いを殺さなくても押し込めなくても良いと思うと何だか肩の荷が降りたような気がする
「まあ一通り全部ざっくり話せばこんな感じですかね、誤解は解けました?」
「ああ・・・もう大丈夫だ」
「それは何よりです、でもまあここからが本題なんですけどね」
俺はもう何だか全部終わったような気持ちで居たがそうではなかった、本田は自分の気持ちを確かめる為ここに来て少し前に自分の気持ちを確かめる事が出来たと言っていた、その答えをまだ聞いていない事に今更気が付いた俺は少し緊張する、最悪の事態は訪れないと分かっているがそれでも本田の答えでこれからのお互いの立ち位置が決まるとなると緊張するなという方が無理だ
「そんなに構えないで下さい、緊張するじゃないですか」
「わ、悪い・・・」
本田は苦笑いだ、目に見えて構えているのが分かる程露骨な態度を取ってしまっていたらしい、自分では気が付かなかった、本田の言葉に俺も苦笑いで答える、喋るとほんの少しだが緊張が和らいだ気がした
「とはいっても私自身、まだアーサーさんに対する気持ちが何なのか分からないんです、たった数日で分かる程生易しいものではやはりありませんでした」
それもそうだ、確かに本田は確かめるとは言っていたが一日俺と過ごしただけで分かるものなら今まで考え込んで苦労したりしていないだろう
「友情と恋の境目って一体どこなんでしょうね・・・私が持つアーサーさんに対する想いはまだ明確にはわかりませんが今日一日一緒に過ごしてみて・・・これだけははっきり言えます」
本田は一呼吸置いて俺に告げた
「これが恋なのか友情の延長線なのか私には分かりません、けれど私はあなたの想いを知った上でもあなたと一緒に居たい、同じ時を過ごしていたいと思えるんです」
「それ、本当、か・・・?」
どうしよう嬉しい、やばい、嬉しい、
告げてはいけない、知られたらそれが最後拒絶されると思って想いを何度も押し殺した、告白してキスしてしまって一緒にはもういられないと思っていた、遊園地に来て観覧車に乗って本田に対する誤解も解けてもう何だかそれで俺には充分だった、いやそれすら俺には過ぎた事だと思っていたそれなのにまさか
俺の想いを知った上で『一緒に居たい』と思ってくれているなんて夢にも思っていなかった、例えそれが友情だとしても自分の想いを拒絶せずに受け止めてくれた本田に涙が零れる、さっき泣いたばかりなのに涙腺から次々涙が溢れだして止まらない、うれしい
「嘘なんかつきませんよ」
優しい声にまた涙腺が刺激される、また流れ落ちるそれを本田が拭ってくれて更に勢いが加速する、結局俺はそのまま泣き止む事なく観覧車は一周する機体から出る時係員が驚いたように俺達を見ていたがそんな事気にしている余裕は無かった、園内の人気ない広場のベンチに座り本田は俺が泣き止むまでずっと隣に居てくれた、時折労わるように声をかけ、涙を払うその指先から伝わる熱が酷く愛おしかった
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あの遊園地以来俺と本田は以前にもまして二人で居ることが多くなった、本田は俺が帰りに誘った日は他に誘いがあってもそれを断って俺を優先してくれる、その特別扱いに心が満たされる、こうして二人で過ごせるだけでも充分な筈なのに
最近ではどんどん欲が膨らんで困る、この感情は友人に抱くには不相応な感情かもしれない、でも恋人に抱くなら不相応ではなくなるだろう、そうなる日が訪れれば良いのにと俺は本田の隣を歩く、こうして隣を歩いているだけで胸が苦しい、けれど以前のように心は苦しくない、隣に居る本田もいつか俺と同じ想いを抱いてくれる事を祈りながら俺は今日も本田の隣で自分の感情と向きあいながら過ごしていた
アーサーは気付いてはいない、菊がアーサーと居る時の態度が以前とは変わって来ている事にもこうして隣を歩いている時アーサーと同じように菊も胸の苦しさを抱いている事にも、鋭い友人達はその変化に気付いていてこっそり二人の成り行きを見守り時には二人の仲が進展するよう心配りをしている事にも、アーサーは気付いていない、相変わらず菊は自分の想いが何のか分からないままだが、歩み寄る二人の距離は確実に縮まっていく、アーサーが不相応だと称した感情にさよならを告げるのも案外そう遠くは無い未来の事かもしれない
2011.10.18
あとがき
(これで終わりです、ラストの展開には悩みましたがあくまでも朝→菊ということで本田さんはアーサーに無自覚の恋心を抱いていますがそれに気付いていないまま終わりにしました、切なめとの事でしたがやはり最後はハッピーエンドのような形を取りたかったのでこんな風になりましたが少しでも楽しんで頂けたら幸いです)