Shoot the Bull's eye

「DDDDDDDDDDDD!!!着いたんだぞ!!」

その日はすぐにやって来た、アメリカでの世界会議が終わり夕暮れ時にアメリカが手配した車に乗り込んだ各国は屋敷の門の前で全員降ろされた、全てがビッグサイズと言われる国だけあってアメリカの屋敷は広大な敷地面積を誇る門から屋敷までは歩いて5分程の距離があるので普段ならそのまま屋敷の前まで車で乗り込むのだが今回は違った、ここで降りるのか?と各国は最初戸惑っていたが閉じられた門の向こうの景色を見て納得する、普通アメリカの庭は青い芝が整然と敷きつめられているのだが今日はそこが墓標がびっしりと生えたおどろおどろしい墓地へと変貌していたからだ

「まさか、ここまでとは・・・!」
「すっげえ!見てみろヴェスト!!あそこの墓んとこ地面から手が出てるぜ!」

予想を超えるクオリティに各国は皆驚いたようだった、これは車で呆気なく通り過ぎては勿体ないだろう

「HAHAHA!!驚いたかい?折角だから屋敷まで歩いてじっくり見て行ってくれよ!!」

そう言って歩きだしたアメリカの後ろに着いて各国も屋敷へと向かう

「ちぎー!いいいい今何か、黒いものがそこの墓の横を通ってったぞこのやろー!!」
「ヴェー!手が動いたあ!!」
「おいスペインさっきからなんだよ」
「え、なにが?」
「ちょ、惚けるなよ幾らお兄さんに構って欲しいからってそんなに何回も肩叩かなくても良いだろ」
「え、俺叩いて無いで、ほら見てみ両手荷物で塞がってるやろ?」
「・・・え、まじ・・・?」
「ケセセセ!何ビビってんだよフランぎゃあああああ!」
「ふむ、こんにゃくだな・・・これは確か日本の所で用いられる古典的な驚かせ方の一種だと日本が以前言っていた」
「やだープーちゃん何ビビってんの?」
「う、うるせえ!ビビってねえよ」

様々な反応を返しながら各国は進んでいく、相手を驚かせる為の仕掛けをふんだんに盛り込んだ庭では絶え間なく悲鳴が響く、その様子を後方振り向き確認しながら苦労して仕掛けた甲斐があったとアメリカは一人満足気に頷いた、だが一つだけあの国の言葉がアメリカの中で引っ掛かる、あんな仕掛けあったっけ、首を傾げるが大雑把な彼はまあいいかと考える事を投げ出した





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紫色の液体が噴き出す噴水を通り過ぎると屋敷の扉を挟んで左右に漆黒の棺の乗った荷台が骸骨の馬につながれている所謂、霊柩馬車が目に入る、馬は向かい合わせで鎮座している為屋敷の扉に入る時はその目の前を通らねばならない、先程の事もある為多少警戒しながら各国は扉に入っていくが予想を裏切り何も起こらなかったので最後尾に控えていたイタリア兄弟もほっとした様子で屋敷の中に入る、屋敷の中は何故か昔に逆戻りしたようにクラシカルな雰囲気になっておりそこかしこの家具にはご丁寧に蜘蛛の巣までかかっている、電球では無く蝋燭で照らされた廊下を歩いてアメリカはスーツのまま来た各国に着替えるようにとそれぞれに部屋を宛がった、少し時間が経ち、着替え終わった各国はチェーンソーを持ちジェイソンの仮装をしたアメリカに連れられ大広間へとやって来た、庭同様広間の飾り付けも凝っていた、そこかしこに人の顔を模して表面をくりぬかれた大小様々なかぼちゃが積み重なっておりそれらは皆どんぐりや木の葉やつる等で飾り付けがされてある、部屋の天井にはシャンデリアが飾られてはいるがそこには蜘蛛の巣が張られ機能はしていない、広間の光源はテーブルやカボチャの中に入っているキャンドルのみだ、その灯りがてらてらとワイングラスや豪華な料理を照らしている様はなかなか不気味でいい演出材料となっている、立食式のパーティーなので椅子は無い、アメリカは皆をテーブルに側へ行かせるとそれぞれに飲み物の入ったグラスを持たせ自分は一番奥の少し段差のあるステージのような場所に立ちにこやかに言い放った

「それじゃ!ハロウィンパーティー始めるんだぞ!!皆楽しんでいってくれよ!!かんぱーい!!」

アメリカに習い各国もグラスをかかげて乾杯を言った瞬間広間にハロウィン独特の陽気でいて陰気な音楽が流れ出す、喉奥へ飲み物を流し込んだ国達は互いのハロウィンの衣装を見て談笑する者や飲み食いに走る者、シャッターを切る事に余念が無い者と様々だ、撮影に奔走しているかと思われた日本だったがそんな事をしていてはイギリスに捕獲されてしまう為、ブログ用に携帯で写真を撮っていたプロイセンや趣味でカメラを持ってきたハンガリー等に後で画像を譲ってくれるよう頼んで相手の視界に映らないようにすべくテラスへと出ようとした時だった

「そっちには何も無いぞ、日本」

後ろから掛けられた声に日本はゆっくりと振り返る、そこに居たのは頭に小ぶりのシルクハット、黒と白のストライプのワイシャツの上にセルリアンブルーのベストを着て同色のマントを羽織った吸血鬼の装いをしたイギリスだ、持ち前の壮絶な美貌と相まってその姿はくらりとするような色気がある、広間を彩るキャンドルの仄かな灯りに照らされているせいかまるで夢の中の出来事のようだと日本は現実逃避をしたが生憎これは夢ではない早々に発見された事に日本は疲れた溜息を吐いて肩を落とした、対照的にイギリスは嬉々とした様子で日本との距離を詰めると腰に手を回し素早く体を抱き寄せる、だが日本は黒い革手袋に包まれた指が己の顔に触れようとする前に腕を突っぱねてイギリスを押しのけた

「何の用ですか?」

冷たく言い放った所で大して効果は無い、イギリスはそんな日本の様子を見てくすりと笑う

「何って・・・そうだな今日は狐狩りって所か」

それが今日の日本の姿に由来しているものだとすぐに分かった、日本は現在まっさらな絹で織られた狩衣を着て頭にはふわふわとした白い狐耳、腰のあたりには同色のしっぽを付けている、穢れや皺一つ無い純白の衣は纏った日本はストイックな色気を無意識の内に放っている、着物の合わせ目から覗く鎖骨を見てイギリスの喉が鳴る余裕のある言動の裏では齧り付きたい衝動を必死に宥めてイギリスはそこに立っていた

「相変わらず悪趣味ですね、狐以外にもたくさん狩る対象は居るでしょう?そちらに行かれたらどうです、きっと私よりも面白い反応が返ってくると思いますよ」
「生憎欲しいのはお前だけだ、他の奴には全く食指が動かないな」

イギリスとの距離を広げようと日本はじりじりと後退するがそれをまたイギリスは追いつめるようにゆっくりと日本の元へと歩みよる、あっという間にテラスの落下防止用の柵に自分の腰が触れ日本がはっとしたような表情を浮かべたが既に遅い、イギリスは柵に触れる日本の腰のすぐ横へと両手を滑らせ手すりを持つ事で完全に退路を断つ、イギリスの腕の中閉じ込められているような状況に日本が眉を寄せる、相手の吐息すら肌で感じれる程の近い距離から少しでも離れようと体を後ろに反らすが、危ないぞ、と優しく背中に手を回されて元の位置に戻される

「離れて下さい」
「嫌だと言ったら?」

すす、とイギリスの手にふとももをいやらしく撫でられ日本の肌が一気に粟立つ、不埒な動きをするイギリスの手をパシンと払い退けて日本は相手を真っ直ぐ見据えて先程の問いに答える

「・・・手を上げる事も辞さない構え」
「おっとそれは困るな・・・」

言葉とは裏腹にイギリスは不敵に笑みを浮かべる、日本でもぞっとするような得体の知れない笑みだった、日本の狼狽を知らずイギリスはどうしたものかと少し考えて日本に告げる

「だったら交換条件はどうだ」
「・・・はあ」
「一人酒は寂しくてな一杯付き合ってくれよ・・・元々その為にお前を探していたんだ」

悪くない条件だろ?と至近距離でイギリスは囁く、何が悪くない条件だ、と日本は思った一杯付き合えと言われて一杯で終わった事等あっただろうか、それでも碌に身動き取れず相手にされるがままの状態よりはそちらの方が幾らかましに思えた日本ははあ、と大きく溜息をついて本当に渋々と言った様子で頷いた

「・・・・仕方ないですね、一杯だけなら・・・」
「そうこないとな」

体を離したイギリスはさっと日本の手を取り一礼して相手を見詰める

「エスコートしても?」
「拒否した所でどうせ結果は変わらないのでしょう?・・・もう勝手にして下さい」

以前のイギリスの行動を指摘し日本は眉を寄せたまま呟く、あの手この手で言いくるめられレストランの中で手を引かれて様々な世話をされたのは今でも思い返しただけで口の中に苦いものが込み上げてくる、あの時は散々抵抗したがそれも無駄だと知った今わざわざ体力を浪費させるような事はしない

「ご賢察痛み入る」

相変わらずの女性扱いに寒気が走るがそれでも最初の頃よりは幾分ましになって来ている自分が居て日本は困ったものだと息を吐く、だが順応は自分の性質なのだからどうしようも無い、このままこうされるのが当たり前になってしまう日も来てしまうのだろうかと日本はぼんやりと考えてその恐ろしさに身震いした





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広間に戻り忙しなく歩き回るアメリカの屋敷の給仕にイギリスはカクテルを頼み少しパーティーの喧騒から離れた広間の隅の方にあるソファへと日本を座らせ自分もその隣に腰を降ろした、日本のパーソナルスペースを軽く無視したいつもの行動に日本もいつものように距離を空ける事で対応しようとしたが肩に手を回され離れられないように力を込められ防がれる、肩を抱いた体勢のままイギリスは給仕からカクテルを2つ受け取り片方を日本に差し出すグラスに入ったカクテルは両方ともルビーのような赤色でハロウィンにちなんで蝙蝠のマドラーが添えられている

「Cheers」
「・・・乾杯」

グラスを触れ合わせた後互いにアルコールを流し込む、一口飲んで日本はカクテルの飲みやすさに驚く洋酒は未だ飲み慣れない所がある自分にしては珍しいと思いよくよく味わってみればそれは舌に馴染んだ日本酒の味がした

「イギリスさん、これ・・・」
「ああ、気付いたか、推察の通りこれは日本酒が入ったカクテルだ、その方が飲みやすいだろ?」
「ええ、まあ・・・」

自分の事を考えてカクテルの種類を選んでいてくれた事には素直にイギリスに好感が持てた、元々はイギリスに負の感情等持っていない日本だ好意は素直に嬉しいと感じる、一杯だけとは言ったがもう一杯位薦められたら飲んでみるのもいいのかもしれないとアルコールでほんの少し上を向いた気分の中で日本は思った

案の定一杯だけと言いつつイギリスは一杯だけでは日本を解放しなかった、だが薦められるのは皆日本にとっては飲みやすい日本酒が使われたカクテルなだけに普段そう言った類のカクテルには縁のない日本は興味が湧いてすすめられるがままにアルコールを摂取する、会話の少ない二人だが不思議と気まずさは感じない、その時日本は沈黙が苦にならない程度に自分はイギリスに心を開いていたのかと驚く、そう言えば以前まであった相手に対する遠慮はここ最近のイギリスの行動で抜け落ちてしまった、それが良いか悪いかは日本には分からないがこの場ではそれが幸いしている、もう二桁に達する程度にはグラスを傾けた為か何だかふわりとした浮遊感が全身を包み顔が少し火照っているように感じる、ほろよい加減の自分はまだ良いが隣に居る自分を飲みに誘った当の本人にはかなり酔ってしまっているようだ、日本はイギリスに目を遣り溜息をつく、その白い肌は上気し体は日本にしなだれかかっている、緩慢な動きでグラスを呷る姿は相変わらずどきりとするような色気を放っている、このままどうなるのか鑑賞したい気持ちもあったがそろそろ止めた方が良さそうだと日本は声をかけた

「イギリスさん、そろそろお止めになってはいかかです?」
「断る、だって日本酔って無いだろ?」
「全く酔って無い訳ではないですよ」
「駄目だもっと足腰立たなくなる位酔って貰わないと押し倒しても抵抗されんだろ」
「・・・なんて事考えてるんですかあなたは」
「飲めよ、もっと、ほら日本・・・」

自分の持っているグラスを日本の口元に持って行こうとしたイギリスだったが酔っている為狙いが定まらないのかふらふらとその手は宙をさまよった挙句脱力してだらりと下に落下してしまう、自分の隠しておけば良い心情まで吐露して動くのに不自由する程酔っていると日本は思っていなかったがイギリスにとって日本酒は飲み慣れない酒の部類に入る、だから普段より酔いが回るのが早いのだろう、酔って押し倒したければ日本が飲み慣れない度数の高い洋酒をすすめるべきだったのに飲みやすいからと日本酒のカクテルを頼んで自分が酔ってしまったイギリスに日本は苦笑いした、不器用な人だと思ったがその不器用さは嫌いではない

「頭ぐらぐらしてきた・・・」

日本の肩に頭を乗せたイギリスはねむそうに何度か目蓋を瞬く

「ここで寝ないで下さいよ」

日本の言葉にイギリスは返事をせずにうつらうつらと瞳を閉じようとする、アメリカの屋敷でパーティーをする時泥酔してしまったものはアメリカが部屋を与えて泊まる事も少なくは無いイギリスもここまで酔っているのならこのまま屋敷に泊めて貰うのが良いだろうと日本はアメリカを探して事情を告げるとアメリカは、全く何やってんだかくたばれイギリス、と呆れた顔で呟いて泥酔して暴れられても困るから屋敷の好きな客室に放り込んでおいてくれよ、と客室を使う事を了承した、その後日本がソファまで戻ると相変わらずイギリスは力なくその背に体を預けている

「イギリスさん部屋で休みましょう、立てますか?」
「立てるに決まってるだろ」

そう言ったものの立ち上がる時ふらりとバランスを崩しイギリスは倒れそうになるがソファの背の部分を押さえる事でなんとかそうならずに済んだ、これは自分の助けれがなければ部屋まで行く事すら出来まいと日本はイギリスの脇腹辺りに腕を回して歩行を介助する、重心がぐらつき足元が覚束ないイギリスの歩みに合わせてだったので広間を出て階段を上がり適当な部屋に入って寝室まで行くのに結構時間がかかった、相手を支える腕は既に筋肉痛だ、これはまた鍛え直す必要がありそうだと考えながら寝室のベッドにイギリスを横たわらせようと日本がイギリスの肩に手を回した時だった

「・・・ッ」

ぐるりと視界が回りベッドの上へと倒れ込むその際打ち付けてしまった背に息が詰まり口から空気が漏れた、突然の出来事に日本は目を白黒させながら呆然とする

「やっと二人きりになれたな」

ぎしり、とベッドを軋ませて日本の上へと体を乗り上げたイギリスは鬱蒼と微笑んで見せた、その態度や声からは酔いを一切感じさせない、日本は一瞬で嵌められたのだと理解し焦る

「酔ったふりだなんて良い趣味してますね」
「ふりだなんて人聞きが悪い、たった今たまたま、偶然にも、酔いが覚めただけだ」
「戯言を・・・」

日本はイギリスの下から抜け出そうと足を動かそうとするがその前にイギリスにふとももの辺りに重心移動されそれは敵わなくなる、ならば残されたのは必然的に腕しかない上体を屈めて来たイギリスを押し返そうと日本は腕を突っぱねると予想外にイギリスは素直にされるまま後ろに下がった、だがそれも束の間宙に残されたままの日本の両手に素早く自分の指を絡めると日本の頭の両横にそれらを押さえ付け固定する、上から体重をかけられている為ちょっとやそっとの事ではそれはびくともしない、完全にイギリスに捕らえられてしまった状態に日本は歯噛みする

「良い格好だな日本」

舐め回す様に日本を見てイギリスは舌舐めずりする、その瞬間ぞわりと日本に悪寒が走った

「何だもう抵抗しないのか呆気ないな・・・もしかして日本、実はこの状況にまんざらでもなかったりするんじゃないのか?」
「寝言なら寝てからどうぞ」
「・・・そうか、なら残念だ」

日本の言葉にイギリスは目を伏せ日本の腕を一纏めにして今度は片手で頭上へと押さえ付ける、自由になった方の黒い革手袋に覆われた手の先を噛み革手袋を外し脇へ放り投げるとすらりとした指がついた白い手があらわれる、指先を日本の輪郭に這わせるとそれはどんどん肌をなぞりながら下へと移動していく、辿り着いた鎖骨の形を確かめるようになぞれば日本の体がびくりと震える、イギリスが身動きするのに合わせてベッドがキシ、と軋むのが嫌に大きく日本の耳には響いた

「無理矢理は趣味じゃないんだけどな」

美しい吸血鬼は獲物を見降ろしながら喉を震わせた





2011.10.30





あとがき
(ちなみに島国が飲んでいたカクテルはキク・キール・ロワイヤルというカクテルです日本酒のカクテルをぐぐっていた時このカクテルを見つけた時これはもう話に入れるしかないと思いました、色々夢が広がりますねキク・キール・ロワイヤル・・・菊正宗という日本酒が使われているのでキクという名前が付いているらしいです)