頭上の緑の瞳はいつもより妖しげに光っているように日本は感じた、仄かな灯りに照らされている所為かイギリスの動作一つ一つが艶めかしい、日本、と呟いた唇はいつもより赤い、恐らく酒に泥酔したのは演技だったとしても全く酔っていない訳ではないのだろう、その証拠に頭上で己の腕を一纏めにしている手から伝わる体温は熱い、触れ合った肌が汗をのせる位には。日本が考えているうちにイギリスは瞳を伏せ徐々に顔を近づけていく、恐ろしい程顔が整った男だ、改めて日本はそう感じた、自分が迫られている状況で無ければじっくり観察したい所だが残念な事に今はとてもじゃないがそんな余裕はない、何とかこの状況から脱しなければならない、日本は拘束された手を解放すべく動かすがイギリスの手はびくともしない、それは少なくは無い衝撃を齎した、今までイギリスに拘束されようと日本が抵抗を示せば大抵イギリスはすぐに体を離してきた、半ば力尽くのような形で引き剥がした事もある、だからイギリスとの力関係はほぼ互角なのではないかと思っていた日本だったが現にどうだ両腕を使ってもイギリスの片手は振りほどけない、物理的に不利な状況になっている事を差し引いてもびくともしないのは可笑しい、ああ、手加減されていたのか、と日本はこの時になって漸く気付くと同時にそれが自分の油断を誘う為のものだったとしたら予想以上にこの男は食えないと感じていた
「考え事か?随分余裕なんだな・・・」
額と額を重ね合わせて互いの顔がぶれる位の至近距離でイギリスは囁く、イギリスの事を考えていたのだと日本は口が裂けても言うつもりはない、そのまま黙っていれば肯定と取ったのかくく、とイギリスは喉奥で笑った
「その余裕すぐに消してやるよ」
一旦顔を離してイギリスは挑発的に日本を見詰める、対して日本は相手を睨みつける事でそれに答えた、それでもイギリスの笑みは消えない、何をされるのかと身構える日本の鼻をイギリスは指で軽くつまむ、力はあまり入っていないが鼻で呼吸する事は出来ないので口で呼吸するしか無い、どういうつもりだと日本は軽く混乱しながらも呼吸する為口を開いたその時だった、素早くイギリスは日本へと顔を近づけてその唇を奪う、唇と唇が触れ合った瞬間、日本の体が跳ね瞳が限界まで開かれる、今まで過剰なスキンシップを行ってきたイギリスだ、当然キスされる事は数え切れない程あった、が、イギリスは決して日本の唇には触れて来なかった、キスといっても唇以外にされるのと唇にされるのとでは意味合いが異なって来る、好きだなんだと言われてもからかわれているだけだと思いこんでいた日本にとってイギリスの行動は信じられないものだった、からかうだけなら同性とここまではしない、だったら・・・そこまで考えて日本は一気に思考を打ち切る、いや打ち切らざるを得なかった、苦しい、鼻と口を塞がれた状態では息が出来ない、苦しい、体温の調節がうまく出来なくて体に熱が篭る、吐き出せない二酸化炭素が自分の体の中に溜まり出口を求めて暴れ出す、相手を引き剥がそうと日本は手足を動かすがイギリスは相変わらずびくともしない、押さえ付けられた腕を解放をしようと身を捩るが酸欠が酷くなり頭がくらくらし始めて日本は不味いと本格的に焦る、日本は我武者羅に腕を動かそうとするがイギリスも譲らない、本気で抵抗してくる日本に背筋を疼かせながら追いつめるように隙間から相手の口内へ舌を差し入れた、体を震わせた日本に気をよくしたイギリスはそのまま舌で口内を散々荒らす
「ーーんッ!んんッ!」
苦しげに日本は呻き息苦しさから目じりには生理的な涙がたまっている、相手を引き剥がそうと必死で侵入してきた舌にまで気が回らないのを良い事にイギリスは日本の舌を自分の舌にぬるりと絡ませて相手に口内へと唾液を送り込む、日本の口に収まりきらないそれは口の端から首筋へと伝っていく、ぞわぞわした感覚が背筋を這い上がるが日本は酸欠でそれどころでは無い、ドクドクと鼓動が耳元で聞こえる熱い苦しい、いつの間にか自由になっていた両腕に気付き相手の胸板を押すがイギリスは離れない、拳を叩き付けても力が入らない今では大した効果も無く結果は変わらなかった、やがて抵抗し続ける気力も無くなり日本は手はイギリスの胸板に添えられているだけになる、それを確認したイギリスはすぐに舌を引き抜き鼻をつまむ指を離して日本を解放する、だが日本は酸素を取り入れる事に必死で逃げる暇が無い、薄暗い寝室、ベッドの上、肌は上気し瞳は涙で潤んでいる、口の端から溢れた唾液をてらてらと光らせながら乱れた呼吸を繰り返す日本の姿に思わずイギリスの喉が鳴る、日本が抵抗しなくなった今足を封じる為にふともものあたりに腰を降ろす必要も無い、イギリスは腰を浮かせ日本に跨ったまま膝立ちで移動する、しゅる、と衣擦れの音が辺りに響きベッドが微かに軋んだ、指先をするりと首筋に這わせても相変わらず日本は乱れた呼吸を繰り返すだけで抵抗しない、イギリスは襟元に手をかけ肩が剥き出しになるように日本の衣服を乱す、露わになった白い肌を見てイギリスは本能のままにそこへ顔を埋めた、さわさわと髪の毛があたる感覚がくすぐったい、相手を押しのけようと日本は試みるが弛緩した体は鉛のように重く持ち上げる事すら出来ない、べろりと肌を舐められ日本がびくりと跳ねる、瞬間肌をきつく吸われて喉奥から声が漏れる、日本には防ぎようがなかった、所有の印が付いた肩を見てイギリスは唇を離す、一見追い詰められているのは日本のように見えるがそれ以上にイギリス自身が一番追い詰められていた、火がついたように体が熱い、目の前の相手に触れたくて触れたくてたまらないそれこそあます所なく、衣服を乱してナカを暴いて悲鳴を強引に口付けで押さえ込んでそして――、一瞬でそれらの工程を思い浮かべたイギリスは駄目だと本能を無理矢理押さえ込んで相手を追い詰めるつもりが逆に自分の首を締めてしまう結果になった事を自嘲する、キス以上の事をしたい気持ちは勿論あるが想いが通じ合ってない今これ以上は進めない、だが溢れ出た想いはいつも装っている余裕を突き破って切羽詰まった内心そのままにイギリスは心情を吐き出した
「好きだ、日本・・・ずっと前からどうしようも無い位お前の事が好きなんだ」
懇願のような響きを持った言葉は日本の心を揺り動かす、先程の疑念がどんどん膨らんでいく、イギリスは自分をからかっているのだと日本はそう信じて疑わなかった、でも今のイギリスの言葉にはそんなもの一切含まれておらず切実な想いが込められているように思えた
「もう時間が無い、早くお前も俺の事好きになってくれ・・・」
フランスの提示した期限はすぐそこまで迫っていた
**********
散々日本を翻弄した割にはイギリスはあの後呆気なく日本の上から体を離し寝室を出て行った、その事に内心驚きつつも取り残された日本は疑念を確信へと変える、いつもの飾り立てた言葉では無いそれはシンプルなだけにすとん、と日本の心へと落ちていった、それにあんなにも真摯に告げられては嫌でも信じざるを得ない、その位イギリスは切羽詰まった表情をしていた、腹の底から出た言葉でしか人を動かせない
、という言葉通りイギリスの本心からの言葉は日本を動かした、今までは格好付けるあまり飾り立てた言動だったのが災いしたらしい、だが自分を過小評価するきらいのある日本はそれでもイギリスの言葉が本心で無かった場合、どうしてくれようかと考えて首を振る、それよりも今は不規則な音を立てる心臓を宥める方が先だ、あんな顔されては心臓に悪い、はあ、と大きく息を吐いて日本は呼吸を整えるそれでも酒とイギリスによって火照らされた体は年甲斐も無い事にそう簡単に冷めてはくれなかった、同盟を組んでいた昔からイギリスに対して友人としては好意を持っていた自分だが恋人として相手を見れるのだろうかと日本は首を捻る、前までイギリスと居る時はマナーに気をつけねばだとか失礼のないようにだとか若干肩の凝る思いをしてきたが今ではその遠慮も無くなりありのままの自分を出す事が出来る貴重な相手でもある、女性扱いやこちらがむず痒くなるような言葉の数々は別だがあの過剰なスキンシップも好意故のものだと分かればそれ程嫌では無い、だが長年ずっと友人として見て来ただけに想いを知ったからと言ってすぐに相手をそういう意味で意識するのは難しく日本は唸る、それから散々考えても自分の気持ちはまとまらず日本は考える事を放棄した、煮詰まった頭で考えて答えが出るような話では無い、今度イギリスに会うのは10月末の会議の時だ今までは相手から話しかけられても食事に誘われても適当に相手をしていたが今度からはきちんと相手を見て自分の気持ちを確かめようと日本は一人決意した
2011.11.4
あとがき
(やっとイギリスのアプローチが功を奏した様子、次回ラストです)