Shoot the Bull's eye

本当なら日本を抵抗出来ない状態にした上でイギリスは頑なな態度が甘く解けるまでキスを送り骨抜きにするつもりだった、誤算だったのが自分の堪え性の無さだ、 あれ以上傍に居れば日本に何をしでかすか分からない、危惧したイギリスは早々に部屋を出て現在は廊下を歩いている、酔っているとは言え内心をそのまま口にしてしまうとは迂闊だった自分の失態に歯噛みしてイギリスはこれまでの事を考える押しに押したお陰か日本の態度は標準装備の八つ橋が取れ遠慮のないものになった、態度は以前より素っ気ないが皆に見せる態度とは違うそれは良くも悪くも特別扱いされているということだろう、スキンシップも最初は嫌がられて一本背負いされた事もあるが今では抱きしめても大人しく大分受け入れてくれるようになっている、まるで人に慣れない猫を手懐けたようで嬉しいが、だがそれだけでは足りない、自分を好きになって貰えなければ意味が無い、もう充分な程自分の気持ちは伝えてきたし好きになって貰う努力もしてきた、それでも日本の態度はイギリスの望みと程遠い所にある、タイムリミットはあと少しそれでも勝負は最後の最後まで分からない、イギリスには一つ策があった、これは下準備のもと相手の気持ちが自分の方へと向かっている時にこそ威力を発揮するものだ、日本の気持ちが自分の方へと向いているのか正直な所イギリスは読みとる事が出来なかった、それでもイギリスの最後の一手は決まっている分の悪い賭けだがやらずに後悔するよりはやって後悔する方が良い 、自分のこれまでの態度はこのたった一回の為だけの下準備に過ぎない、この策を以ってしても反応が得られないというのなら本気で日本の気持ちを射止めることは不可能なのかもしれない、ふと浮かびあがった弱気な思考を払い退ける、弱気になって日本が手に入るのか?と自分に問い掛けイギリスは首を振った、 大丈夫だやれる事はやって来た、必ず自分の望みを叶えてみせる、瞳に強い意志を宿し、早く早く自分の元へ落ちて来いと逸る気持ちを抑えてイギリスは渇望した瞬間を待ち望んでいた





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今回の会議は日本で開催される為日本は誰よりも早く会議室へと足を運び会議の為に掛かったカーテンを開き窓を開け、ホワイトボードを所定の位置まで運んだ後ホワイトボード用のペンのインクがきれていないか確認する、会議の為のセッティングが終わり一息つこうと自販機のある場所まで向かおうと会議室を出て廊下を歩いている時に日本はばったりとイギリスに出くわした、自分の気持ちを見極めると決意したもののやはりいつもの癖で身構えてしまう、視線と視線が交差する、イギリスはいつものように性質の悪い頬笑みを浮かべ嫌に甘い言葉を羅列した後自分に過剰に触れれてくる、と一連の流れを日本はすぐさま頭に思い描いたが予想を裏切ってイギリスは

「あ、日本、おはよう」

にこりと社交辞令のような笑顔を浮かべて挨拶をした後日本の真横をあっさりと通り過ぎそのまま会議室へと入って行った

「え・・・?」

イギリスの反応についていけず日本は呆けたような声を出した、今廊下を歩いていったのは本当にイギリスなのかと思ってしまう程イギリスの行動は様変わりしている、どくり、と自分の胸が嫌に脈打つ、どういう事だと日本が考えても答えは出ない、イギリスの行動に戸惑いを隠せないまま日本は自販機の元へ向かいお茶を買う、喉につっかえるそれを無理矢理流し込んで日本は一人溜息をついた

お茶を何とか飲み干した後日本は再び会議室へと足を踏み入れたイギリスは自分の席で静かに会議の資料に目を通している、日本の方へは見向きもしない、ずきりと胸が痛む、もうお前なんかに興味は無いと言外に言われている気がして日本は首を振る、考え過ぎだきっと、油断させておいて後で散々に構われるパターンかもしれない、そこまで考えて日本はまるで自分はイギリスに構われたいみたいじゃないかと思い苦笑いする、今まであんなに構われるのは懲り懲りだと思っていたのにいざこうして距離を置かれると何だかもの足りない、面倒くさい性格だと心の中で大きく溜息をついて日本も椅子に座り鞄からファイルを出してイギリスに習い資料を読み始めた





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結局あの後もイギリスは日本に触れるどころか話しかける事もせずに沈黙を保ったまま時は流れていった、定時より大分早く会議室を訪れたドイツはいつもと違う二人の様子にうろたえ、続いてやって来た中国はやっと諦めたかあへん野郎と鼻を鳴らした、フランスは心配そうに、ロシアは面白そうに二人の様子を眺め、珍しく何かを察した様子のアメリカは君って本当性質が悪いんだぞ、不味いものでも見るような視線でイギリスを見詰め、最後に来たイタリアはここ最近日本に近づくともれなくイギリスが割って入る所為かびくびくしながら日本に近づき、喧嘩でもしたの?と聞いてくる始末である、そう言われても日本でさえイギリスの態度の理由は分からないので答えようがない、何でもありませんよ、と日本は曖昧にイタリアに笑いかける、その様子をイギリスがぎらぎらと光る瞳で見詰めていた事を本人は知る由もなかった





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午前の会議の休憩時間、昼休み、午後の会議の休憩時間、これまでならその全ての時間イギリスに話しかけられたり追い回されたりして嫌でもイギリスと接触してきた日本だったが今回に限ってイギリスは日本に触れようとも話しかけようともしない、自販機の所で偶然会っても廊下ですれ違っても、その瞳は日本を映さない、今日二人が交わした会話は朝の挨拶と会議中の、『悪いさっきの発言聞き逃したからもう一度言ってくれないか日本』『分かりました』、位のものだ、これは自分の勘違いではなく明らかにイギリスの態度が変わっていると感じた日本はふとイギリスが自分に過剰に触れてくるようになる前の自分達の関係を思い浮かべた、あの頃はお互い会議で顔を合わせる機会があっても挨拶程度しか会話が無かった、イギリスはあの頃のイギリスそのものだ、以前と変わらない態度、けれど日本の胸はそれに対して淡い寂寥感を抱く、あの頃のような関係では寂寥感を抱いてしまう程自分はイギリスが気になっているのだとその時日本は痛烈に自覚した、陽が傾いた頃会議は終わり各国は帰り仕度をして早々に宿泊するホテルへと戻っていく、それはイギリスも例外ではない、資料を鞄に仕舞い、椅子にかけていたトレンチコートを羽織って会議室から出ようとしている、やはりあくまでも自分には話しかけないつもりなのかと日本は少し憤る、せめてどうしてそんな態度を取るに至ったのか説明願いたい、相手から話しかけてこないなら自分から話かければ良い、日本はイギリスの腕を逃がすまいと背後から強く握り動きを封じた

「ちょっと付き合って下さい」

驚いたように目を見開くイギリスに構わず腕を取り日本はどんどん廊下を歩いていくそのまま休憩室へと入るばたんとやや乱暴に扉を閉めて日本はイギリスに詰め寄る

「どういうつもりですか?」
「何がだ?」
「質問を質問で返さないで下さい、あなたの態度は明らかに今までと違う」

低く押し殺したようなイギリスの声に日本は怯みかけるが負けじと真っ直ぐに相手を見詰めて問い掛ける

「やはり・・・私をからかっていたんですか?」

あの夜真摯に好きだと自分に告げたあの態度すら演技だったのなら恐らく自分はもう一切彼の言葉を信じる事は出来なくなりそうだと日本は思いながら無表情の相手に言い放つ

「私の事が好きだと告げた、あの言葉も嘘だったんですか?」

日本が言い終わった瞬間イギリスは日本の腕を引き、自分の腕の中へとその体を閉じ込める、唐突な行動に驚いたが苦しい程きつく抱きしめてくる腕の強さに何故かほっとしている自分に気づき日本は自分自身に驚いた、イギリスは日本の肩に額を置いて囁く

「嘘な訳、ないだろ・・・」
「だったら、どうして・・・」
「押して駄目なら引いてみろ、って言葉知ってるか?」
「まさか・・・!」
「察しの通りだ、と言っておこうか?」

またしても嵌められた、要するに自分は恋愛の手管でも使い古された古典的な手にまんまと翻弄されたという事だ、良い齢してこれは、と絶句する日本とは対照的にイギリスは嬉々とした様子だ、猫ならごろごろと喉を鳴らしている所だろう

「今日一日ずっと日本に話しかけるのも触れるのも堪えた甲斐があったな」

額同士をこつりと合わせて日本の頬をイギリスの指がなぞっていく

「お前イタリアと話してる時、何でもありません、って言ってたしもう本気で駄目なのかと思ったけど・・・ちゃんと俺の事意識してくれてたんだな嬉しいよ日本」

自分の気持ちをまさにぴたりと言い当てられ羞恥を覚えた日本は俯く、だがイギリスは俯く日本の顔を無理矢理上に向かせると今日我慢した分存分に堪能させて貰うとばかりに顔中にキスの雨を降らせていく、やわらかな唇が降ってくる感触に悪酔いしそうになりながら日本は思った、ああ、こんなにも心がざわつく、あんなに考え込んでも答えが出無かったのに本人を目の前にすると自分の気持ちがすとん、と自ら落ちて来た、触れられる事もやはり嫌では無い好意を持たれている事は素直に嬉しい、ほだされかけている自分を知覚して日本はもうすぐこの人に恋をするのだろうと降ってくる唇を受け止めた





2011.11.08





あとがき
(積極的な(当社比)イギリスを書くのは新鮮で楽しかったです、甘めの話に自分ではしたつもりですがあくまでも主観ですので皆さまから見ても甘めになっているといいな、と思っています。少しでも楽しんで頂けたなら幸いです。)