稀によくある話をしよう

日本家屋のとある一室、日本(イギリス)は着替える為にゆっくりと浴衣に手をかける、自分はただ着替えるだけただ着替えるだけなんだ、余計なことは考えるなとぶつぶつと呟いてもいつになく早い心臓の鼓動は誤魔化せない、頬を若干赤く染めて日本(イギリス)は取り敢えず上半身の衣服だけ寛げた、衣装部屋の為部屋には姿見が備え付けられている、意識は自分だが体は恋人のものだ、ここで鏡に自分を映して体を見ないという選択肢はそもそも日本(イギリス)の中に存在していなかった、鏡の前に立つと日本(イギリス)はじ、と舐めるような視線で自分の上半身をじっくりと観察した、日本も俺の体見たって言ってたしお相子だよな、と自分自身に言い訳をして。

「思ったより体・・・締まってるんだな」

白く細そうなイメージと裏腹に腕や腹にはほどよく筋肉が付いている、毎朝素振りなどをしている成果だろうか、するり、と腹を撫でてみてもそれは明らかだ、弾力の下には硬い筋肉が付いている、締まった体には余分な脂肪は見受けられない明らかに自分の体よりも多い筋肉量に日本(イギリス)は、今度から俺も朝トレーニングでもするかな、と若干へこんでいた、昔は特に鍛えていなくても付いていた筋肉だったが現代では争いとは程遠く平和である、それが悪いことだとは決して思わないがデスクワークが主な自分の生活では筋肉も衰えるばかりである、それに元々趣味がガーデニングと刺繍なだけあって休日も日本と会う約束をしていなければ殆ど家を出ない、そんなイギリスと毎朝鍛練している日本だ、差が付いて当然というものである、体のあちこちを触りながら日本(イギリス)は思った。

「凄い、本当無駄な脂肪が無い・・・」

相手の体にただただ感嘆のため息をつく日本(イギリス)だったが着替える為にこの部屋に来たのを思い出して漸く白いワイシャツを手に取り袖を通した、次は下半身だ流石にここを直に見て正気を保てるとは思わなかった為浴衣の下から黒のスラックスに着替え浴衣を取り払う、ワイシャツをスラックスの中へと入れ日本(イギリス)はふと気になって視線を鏡にやった

「腰細いな」

日本では至って普通の体型なのだが欧州のメンツを見てきたイギリスには華奢に見える、力を込めれば折れてしまいそうなそこを見て日本(イギリス)の中で先ほどからくすぶっていた感情が溢れだす、触りたい、日本の体ではなく自分の体で、そう言えば朝から非日常な体験をした所為で昨夜のことが頭から吹っ飛んでしまっていた、日本もそうなのかは分からないが昨夜の事など一切頭に無いような様子だったので余計にその事が自分の意識に浮上することがなかったように思う、自分自身が招いた結果なのから完全に自業自得だが日本に触れられなかった事を思い出した今その欲は猛烈な速度でイギリスの体を支配した

(ああ、くそ、考えてみりゃ、こんなの生殺しじゃねえか・・・)

日本の体が目の前にいるのに意識は自分だ、それでこの体をどうこうすると言っても難しいものがあるし勝手に日本の体を好き勝手して言い訳が無い、どうにもままならない今の事態に日本(イギリス)は歯噛みしてこのまま考えていても埒が明かないと、邪な思いを振り切るようにさっさと上着を着て部屋から出ていった





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お互い着替えを済ませた後、日本は開催国の為会議室のセッティングをしなくてはならないのでイギリス(日本)と日本(イギリス)は少し早めに家を出て会議場へと足を踏み入れた、お互い妙に高かったり低かったりする視界に違和感を持ちつつ長い廊下を進みながらこれからの互いの行動について確認を取りあう

「良いですかイギリスさん、他の国の方とお会いしたらあくまでも私として行動して下さいね」
「分かってる」
「アメリカさんと言い合いしたり、フランスさんを殴ったり、中国さんと喧嘩したり、イタリア君にがん飛ばしたり決してしないで下さいね」
「わ、分かってるよ」

イギリス(日本)の言葉で日本がそれらを行っているところを想像してしまい思わず吹き掛けた日本(イギリス)だったがなんとか踏みとどまった

「会議の時はただアメリカさんの意見に同意しておけばいいので簡単だと思いますが・・・やはり問題は休憩時間の方でしょうかね・・・」
「なんとかなるだろ、俺の心配ばかりだけど日本の方は俺のふり大丈夫なのか?」
「それこそいらぬ心配です、問題ありません、イギリスさんの事はよく観察していましたから大体誰に対してどんな表情でどんな受け答えをするのか頭に入っています」
「そ、そうか・・・な、ならよかった」

イギリス(日本)の言葉に自分の事をそんなにも気にかけてくれていたのだと日本(イギリス)は嬉しく思い照れくさくなって顔を反らした、だが観察理由はあくまでもネタの為である、ぬか喜びしている事を知りつつもイギリス(日本)はまあ言わない事が良いこともありますしね、と事実を伝えない事にした

「まあそうでなくてもいざとなればテンプレツンデレ台詞言えば何とかなるでしょうしね」
「一言多いぞばかあ!」

死んだ魚のような緑の瞳をした敬語を話すイギリス(日本)に普段の敬語はどこへやらやや乱暴な言葉遣いの日本(イギリス)が詰め寄る姿は異様な雰囲気を纏っていたがそれを指摘する者は誰もいない、二人は異様な姿そのままに会議室へと歩いて行った、会議室の扉をくぐりきっちりと閉められたカーテンと窓を開け換気をした後、必要な書類を各国の席に配り終え一息つこうと思った所でドイツが会議室へと入って来る

「おはよう、早いな二人とも」
「お、おはよう、ございます・・・」
「おはよう・・・」

思わずいつものように敬語抜きで喋りそうになったがイギリスはなんとか持ち直しぎこちない笑顔を浮かべてドイツに挨拶する、一方イギリス(日本)はドイツに挨拶を返した後は我関せずの様子でつん、とそっぽを向いている、普段の俺ってあんな感じなのかと日本(イギリス)は内心思っていると目の前にドイツが来ておりそのあまりの威圧感に少し気押された

(日本の視線だとこんなに高く見えてるんだな・・・)

そんな日本(イギリス)の状態を知ってか知らずかドイツは日本の顔を心配そうにのぞき込む

「何だか今日の日本はいつもと雰囲気が違うな」
「え、そ、そうか・・じゃねえ、そうですか?」

また敬語抜きで喋ろうとしていた時にイギリス(日本)の鋭い視線を感じ日本(イギリス)は言葉を訂正する

「ふむ、また徹夜でもしたのか?あまり無理はよくないぞ」
「だ、大丈夫に決まってんだろ馬「日本、確かに顔色が良くない、少し席に座って休んだらどうだ?」

思わぬ相手から労りの言葉をかけられた事による驚きや嬉しさから照れた日本(イギリス)は完全に本来の自分の口調になってしまうが最後まで言い終わる前にイギリス(日本)は日本(イギリス)の言葉を遮るように言葉を放ちフォローする、そしてそのまま日本(イギリス)の元へ歩いて行くと気遣うように手を日本の背へと回して席へと案内するふりをして小声で喋る

(ちょ、どんだけ、イギリスさん、アドリブ弱いんですか・・・)
(笑うな!仕方ないだろ、ドイツだぞ、あのドイツが俺の心配を・・・!)
(はいはい、まあ少し席に座って頭の中で敬語の練習でもしてて下さい)
(悪かったないつもの癖が抜けなくて)
(いえ、まあぶっつけ本番でしたしね)

会議室の扉近くに日本(イギリス)を座らせた小声で話している時近くの扉が開き今度はフランスが入って来る、フランスを見てイギリス(日本)は日本(イギリス)に向かって、まあ暫くイギリスさんは見学でもしていて下さいと言いフランスの方を向いた、日本とイギリスの言動は違いすぎる、やって見て初めて分かったが想像していたよりも相手に成り済ますということは難しい日本は大丈夫だと言っていたが本当に大丈夫なのだろうか?日本(イギリス)は内心不安い思いながらも二人の様子を取り敢えず見守ることにした

「Bonjour!げ、朝一番から見る顔がイギリスだなんてお兄さん今日ついてないわ」
「んだとこらワイン野郎!その髭全部ぶち抜いてやろうか!」

イギリス(日本)の第一声に日本(イギリス)は目を見開く、そこにはまごうことなき「自分」が立っていた、イギリス(日本)の表情をよく見てみれば先程は虚ろだった瞳に光まで灯っている、俺だ、俺が目の前に立っている、と日本(イギリス)はイギリス(日本)の演技に心底驚いていた

「相変わらず品の無い言葉遣いだなイギリス、俺を見習ってもっと優雅な言動を心掛けたらどうだ?」
「生憎お前の言動のどこが優雅か理解しかねるな、脳みそまでワイン漬けで碌に機能してなんじゃないか?××××野郎」
「痛っ!もうお前はすぐそうやって暴力に訴えるんだから、お兄さんもう知らない!」

俺が目の前に居るなら今日本と入れ替わっている俺は一体何なのだろう、日本(イギリス)がそう混乱する程見事に日本はイギリスを演じてみせた、まさかあの日本の口から(実際には自分の口なのだが)スラングが飛び出したり、フランスのすねを蹴ったりする所を見ることになるとは露程も思っていなかった日本(イギリス)である。その後もイギリス(日本)は中国と言い合いをしたり、イタリアにがんを飛ばしたり、アメリカにくたばれと言われて涙目になったり、それぞれに対しても完璧にイギリスを演じた、対して日本(イギリス)も中国に頭を撫でられたり、イタリアに抱きつかれたり、アメリカやフランスに友好的に話しかけられたりといつもとは違う破格の扱いに戸惑うことはあれどドイツの時程同様せずに何とか敬語も駆使して事無きを得た、こうして互いにいつもとは違う各国の態度に新鮮さを覚えながら会議前の時間は過ぎていった





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会議前の時間はあっという間に過ぎ去り現在会議の真っ最中である、会議中日本(イギリス)の出番は少ない、議長になれば話は別だが基本的に議長で無い時の日本はアメリカの意見に同意するだけなので会議中も日本(イギリス)は大人しくじっと自分の席に座っている、ちなみに日本(イギリス)の隣の席はイギリス(日本)だ、何かあった時その方が対処しやすいからである。

「で、この案なんだけどやっぱり俺の考えた案が一番良いと思わないかい?」

来た、と日本(イギリス)は思った、またいつもの無理矢理にも程がある案を押し通そうとするアメリカに突っ込みたい所だが生憎今自分は日本である為同意以外の発言するのは憚られる、ちらり、と隣に座るイギリス(日本)を見れば日本(イギリス)の言わんとしていることが分かったのかイギリス(日本)はこくりと頷き声を放つ

「俺はアメリカの案に反対だ」
「また君かい、毎回毎回懲りないな」
「懲りないのはお前だろうが、毎回毎回同じ事言わせやがって、大体この案は何だ、非現実的過ぎるだろうがこんなのが罷り通るなら世も末だぞ、この案の欠点はざっくり挙げると三点だな、まず一つこの案を実行した所で効果が期待できない所だ、まったく効果が無いとは言わないが微々たるプラスの為に巨大なマイナスを背負う事になるなんて馬鹿馬鹿しいにも程があるだろう、もっとよく自分の案を検証してから会議に持ってこいと言っているのにお前はその場で思いついたことを口からぽんぽんぽんぽん言いやがって少しは口に出す前に頭で考えろよアメリカ。次、二点目は予算がかかり過ぎる事だ、お前何だこの予算はふざけんじゃねえぞ、こんなことにこんな金つぎ込む位ならもっとましなビジネスに俺は投資するなそれにこの各国の予算援助金、日本の所だけ0の数が多いぞ、前々から日本を財布代わりにするのは止めろっつってんだろ、日本の巨額の援助があること前提で案を出すな、甘えるな、これも前から言ってる事だよな、どうしてお前は俺の言った事を全部左から右に受け流してんだよ、少しは態度を改めろ、だったら俺も一々お前の案に突っ込み入れなくて済んで会議もスムーズに進むんだよ、大体の会議お前と俺とフランスの言い合いに時間使い過ぎて終わってんじゃねえか実りが無いにも程がある、全てがお前の所為だとは勿論言わない、だけどお前も世界のリーダーを自負するのなら起きるであろう事態を未然に防ぐ努力も必要なんじゃねえのか」

イギリス(日本)の発言をぽかんとした様子で聞いていた各国を差し置いてイギリスは一呼吸置き口を開く

「勘違いするなよ、別に俺はお前を責めるつもりで言ってるんじゃない本気でお前の事を心配しているからこそきつい事も耳に心地よくない言葉だって敢えて言う、そこの所は分かっておいてくれ」
「イギリス・・・」
「ああ、三点目が残ってるがまだ俺の反論が必要か?」
「ううん、遠慮しとくんだぞ!その、イギリス・・・」

ごめん、と小声で謝るアメリカに各国がざわめく、日本(イギリス)自身も驚いたまさかアメリカがイギリスに謝るとは誰も思っていなかったからだ、こんな事態前例がない

「今日のイギリスはどうしたんだ・・・?」

ドイツやフランスを筆頭にイギリス(日本)に向かって視線が降り注ぐが本人はなんてことないという風に至って平静な様子に見えた、一番驚いたのは日本(イギリス)だ普段あれだけ発言を慎んでいる日本が幾ら自分のふりをしているからと言ってもあんなにずばずばと物を言うとは思っていなかった、寧ろ自分の発言よりも筋の通っている物言いに聞こえるし、自分が普段照れて上手く言えない所も日本ははっきりと言ってくれた、これだけの言葉をすらすら言えるくらいに日本は自分の事を理解してくれているのだと考えると心の奥底からあたたかいものが溢れだす、自分の姿をしているが出来ることなら今すぐ隣に座る日本を抱きしめてキスしたいとイギリスは思った、発言しないからと言って自分の意見を持っていないということにはならないがあれだけしっかりと物事を考えているのに言わないなんて勿体無い、過去にもっと会議で発言したらどうか、とイギリスが日本に促したことは勿論ある、だが日本はイギリスが言うたびに私には到底出来ませんと首を振った

(何が私には到底出来ませんだよ)

ちゃんと言えるじゃねえか、もっともそれはイギリスの立場だったらの話だ、日本が日本という立場に置かれている時にはイギリスの知らぬ葛藤があるのだろう、それにしても日本の『出来ない』はやはり信用できないと日本(イギリス)は隣に座るイギリス(日本)を見て苦笑いした、イギリス(日本)の言葉で少ししょんぼりとした様子のアメリカだったが数分後にはいつもの元気を取り戻して積極的に会議に参加した、無理難題を言わなければイギリスがアメリカの案を反対することもそれに便乗するようにフランスがイギリスとアメリカの意見に反対する事もない、イギリスの言葉に触発されたのか各国もいつもとは違う雰囲気で話し合ういつもは収集がつかなくなり時間通りに終わらないのが普通の会議だったが今回だけは定時になる前に全ての議題を話し終えるという異例の事態になったのであった





2011.11.30





あとがき
(国名の表記がややこしくて申し訳ありません、以前から書きたかった場面が今回書けて楽しかったです)