稀によくある話をしよう

「あー、うむ、それでは世界会議を終了する」

元々の面倒見の良さからいつの間にか場を取り纏める役になっていたドイツの声で5日間に渡って行われてきた世界会議に幕が下りた、常ならば彼の怒号が飛び交う会議になるのだが今日はそんなこともなく、終わりを告げる彼の声色は段違いに穏やかなものだった。今日は世界会議の最終日、そして最終日には打ち上げの飲み会を行うのが常である、打ち上げを行う料亭はあらかじめ日本が予約しているのだが会議が長引く事も計算に入れて予約時間を設定した為予約の時間は今から1時間近くもあった、料亭に早々に押し掛ける訳にもいかないので各国は約束の時間が来るまで合間に出来た時間をそれぞれ休憩室などで過ごすことにした

「にしても今日のイギリス、なんか普段と違ってたね日本」
「あ、ええ、そうですね」
「ふむ、何か心境の変化でもあったのだろうか・・・」

休憩室のソファーに三人仲良く腰掛けてドイツ、日本(イギリス)、イタリアは雑談していた、見た目だけは何時ものメンツなのだが日本の中身はイギリスである。元枢軸組は大変仲が良く何かといつも一緒に行動することが多いのに加えて大変個人的なことだがドイツとは何か話し辛く、イタリアは自分を見ると逃げることもあってこの二人と碌に会話したことがない日本(イギリス)だ、正直二人に囲まれての会話はなかなか馴染めないものだった

「おい、イギリス今日はどうしたんだよ、アメリカに対しては口下手になるお前があんなこと言うなんて・・・お兄さん本当驚いたわ」

もしかして熱でもあるのか?と額に伸ばされたフランスの手をイギリス(日本)は苦虫を十匹位噛み潰したような顔で払い退ける

「うぜえ、髭が移る触んな」
「人が折角心配してやってるのにお前は・・・」
「余計なお世話だ、クソ髭!」
「・・・うん、やっぱいつも通りのお前だわ、お兄さん心配して損した・・・」

と長年腐れ縁として付き合って来たフランスにさえ見抜けぬ日本の演技に相変わらずすげえな日本、と感心しながら日本(イギリス)は話題に上ったイギリス(日本)を見つめていた

「あ、イギリスと言えばさ俺最近不思議に思ってたことがあるんだ、それとイギリスの様子がおかしい事絶対何か関係があると思うな」
「ほう、何だ?」

ほわほわとした笑顔を浮かべて自分の隣で喋るイタリアに違和感を覚えながら喉の渇きを覚えた日本(イギリス)はソファ近くのガラス張りのテーブルに置いておいた緑茶入りの紙コップを手に取り一口お茶を口に含み喉奥へ流し込んだその時だった

「エロ本を読まなくなったからきっとイギリスおかしくなっちゃったんだよ!」
「ぶっ!!げっほ!ごほ!!」
「大丈夫か日本!?」
「ヴェー日本大丈夫?はいハンカチあるよー」
「ありがとう、ございます、咽ただけですので大丈夫です」

いつになくキリリとした表情で告げられた言葉はあまりにも突拍子が無さ過ぎた為思わず噴き出してしまった日本(イギリス)である。一体どうしてそういう考えに至ったのかまったくもって理解出来ないと心の中では盛大に突っ込みたいのを我慢しつつ日本(イギリス)はイタリアが差し出してくれたハンカチで口を拭う

「イタリア、君・・・どうしてそう思ったのですか?」

あくまでも自分は日本だ、日本らしく振るまえと自分自身に言い聞かせる努力をして日本(イギリス)はイタリアに尋ねた

「だってさ日本、イギリスって前まで毎回会議の時も休憩時間も四六時中エロ本読んでたでしょ」

そんな四六時中読んでねえ!お前の中の俺のイメージは何なんだよ!と日本(イギリス)は心中で思いつつ若干引き攣った笑顔でイタリアの言葉の続きを待つ

「そんなイギリスがさ、最近会議の時も休憩時間も全然エロ本読んで無いんだよ、もしかしてエロ本読まなさ過ぎて禁断症状が出ちゃったんじゃない?」
「イタリアの言うことも一理あるな、好きなものを我慢し過ぎるとストレスが溜まり何かしら人は突拍子もない事をしだすからな俺達は身をもって経験しているからイギリスの気持ちはよく分かるな日本」
「え・・・?」
「ほら、ドイツが日本に塩分を摂取しすぎないように食事制限するように言って、それで日本だけが我慢するのも嫌だから日本に付き合ってドイツもビール飲まないようにしてた時あったでしょ?」
「は、はい・・・」
「食べたいのを二人が我慢して我慢して我慢してた時にプロイセンが二人の目の前でわざわざビールと塩鮭食べて・・・それで、二人共すごく怒って我を忘れて酒場で暴れまわってプロイセンをぼこぼこにしてたよね、俺、あの時の二人の顔を思い出すと今でも震えが止まらないであります」

あのプロイセンがぼこぼこになる程暴れまわる二人を想像出来ずにイギリスは面食らう、イギリスはわざわざ日本を怒らせる事をしたいとは思わないので日本が本気で怒った所は今だ嘗て見たことがない、イタリアの様子からするとかなり派手に暴れまわったようだふるふる、と震えるイタリアの顔は過去の事を思い出しているだけにも関わらず青褪めている。イタリアの話を聞いてイギリス今後も絶対に日本を怒らせないようにしようと以前にも増して固く誓う

「すまなかったイタリア、だがもうあの時のようにはならないよう色々と気をつけているから大丈夫だぞ」

本当にそうしてくれとイギリスも思った

「それで、話を戻すが・・・イギリスの原因は禁断症状だとしてどうしてイギリスはいかがわしい本を読まなくなったのだろうな?」
「ヴェー俺も思った、何でだろ?あんなに読んでたのにね」

ドイツの言葉でほっとした表情を見せたイタリアはまたいつもの調子に戻った、先程はへにょへにょになっていったくるんも今では元気に曲線を描いている。イタリアとドイツは考えているが本人に聞かない限り答えは出ない、だがわざわざ理由を聞くというのも野暮というものである、当の本人はそんな二人の様子を見て溜息を吐いた、大真面目に何を考えているのやらである。二人の言葉通りイギリスは最近そういう本を読んでいない正確に言えば日本と付き合い始めてからイギリスはエロ本を読むのを止めた、別に日本が読むなといった訳では無いが付き合っている相手がエロ本を読んでいたら日本だって嫌だろうし自分自身何か日本への裏切りのような気がしてまったく読む気が起らなくなった、ただそれだけのことだ。日本とイギリスが付き合っていることは本人達しか知らない、もしドイツとイタリアがそのことを知っていたならもっとましな考えになったかもな、と日本(イギリス)は一人心中で呟いた、その後少し雑談を続けドイツは喉が渇いたらしく自動販売機に飲み物を買いに、イタリアは会議室に忘れ物をしてきたらしく取りに行った為日本(イギリス)はソファに一人取り残される、最も本人は慣れない二人に囲まれている状態から脱せた上いつぼろが出るかと内心不安だった為解放感を感じていた、丁度その時だった一番今見たくない、いやいつだって出来ることなら顔も合わせたくない相手が嬉々として自分の方へ近づいてくる姿が見えて日本(イギリス)は人知れず舌打ちをした

「日本ー!お兄さんの相手してーー!」

イギリス(日本)から逃れるように親しげに自分に話しかけてくるフランスはいつにも増して気味が悪い、慣れない展開の連続に段々イライラとして来た日本(イギリス)は に馴れ馴れしく日本に話しかけてんじゃねえよ髭野郎と内心思い、相手をしてやる義理も無いので空になった紙コップを手に取りソファを立ったが日本(イギリス)がその場を去るよりもフランスが日本の元へと辿り着いた方が早かった、立ち上がった日本(イギリス)の肩をいつもやっているノリでフランスは親しげに抱く、フランスにとってはなんてことの無いただのスキンシップだ、だがそれはイギリスの逆鱗に触れた。肩を抱かれた瞬間、イギリスいや日本の、毛穴という毛穴が開き、嫌悪をという言葉すら生ぬるい位の負の感情が全身を駆け抜けた、今見かけ上自分が誰であるかということを考えるより先に長年刻み込まれた本能のまま日本(イギリス)は行動していた

「薄汚い手で触んじゃねえ!!!」

ゴッ!!!と鈍い音が休憩室に響く、フランスを細胞レベルで嫌っているイギリスにフランスが日本に普段するように親しく触れればどうなるか分かっていたからこそ自分の元へと向かわせないように話しをしていたイギリス(日本)だったが時すでに遅し、気付けばフランスが自分(イギリス)の肩に手をかけようとしていてその手が触れた瞬間もはや反射のように日本(イギリス)は裏拳をフランスの顔面ど真ん中に叩き込んでいた、終わった・・・イギリス(日本)は瞬時にそう悟る、日本がフランスに拳を叩き込んだ瞬間アメリカが口に運ぼうとしていたハンバーガーをぼろりと落とし何やら興奮した様子で叫び、中国が目を見開き、ロシアは何だかわくわくした様子で二人を見守り、扉から一緒に入った来たドイツとイタリアは部屋に足を踏み入れた状態で固まっている、そして日本(イギリス)から思わぬ手痛い歓迎を受けた当の本人であるフランスはどうしてか顔を赤らめている。普段は感情をあまり表に出すことが無く涼しい顔をした日本が感情を露わに凶悪な表情をしている様は震えあがるほど恐ろしく激しい怒りを覚えている所為か瞳孔が開ききっている。だが拳を受けた所を押さえつつどこか期待に満ちた眼差しをこちらに向けるフランスを見た瞬間その表情は消え去り柳眉を顰めて冷たい双眸を細め、まるでゴミ虫でも見るが如く相手を見下ろす、ドの付くマゾな方々なら跪いて踏んで下さいと懇願するであろう表情を見てもれなくフランスも鼻息荒く叫んだ

「日本!踏んで!!」

ドMは強し、殴られたというのに顔を赤らめ嬉々として日本(イギリス)に詰め寄るフランスを見てイギリス(日本)は思った

「はは、気持ちわりい殴られて喜んでら、本当にお前は変態だなフランス」
「やばい、俺本格的に目覚めそう」

日本(イギリス)に背中を土足で踏まれながらフランスが呟く、もう目覚めているのに自覚が無い所が怖い所だ、日本(イギリス)とフランスを見て生粋のドSであるドイツも何か疼くものがありその様子を敏感に感じ取った隣のイタリアはドイツから距離を取る、変なスイッチが入ってしまった日本(イギリス)はイギリスの口調そのままでフランスを罵り和やかだった休憩室は一変して異空間へと早変わりする

「に、日本があへんの言葉遣いになってるある!!あへん野郎、日本に何したあるか!!」

状況についていけず涙目な中国がイギリス(日本)に詰め寄る、詰め寄られた本人は暴走した二人をどうやって止めるべきか頭痛に苛まれながら考えていた














2011.11.07





あとがき
(相変わらずの国名表記実にすみません、個人的にフランス兄ちゃんはドMだと信じています)