日本(イギリス)の目の前に立ったイギリス(日本)は瞳を伏せ真っ直ぐに相手を見詰める、その瞳には常にない甘い光を帯びており日本(イギリス)の心臓が跳ねた。自分の姿である筈なのにやはり中身が日本だと別人のように感じられる、伏せられた瞳から放たれる色気に当てられてじっと見詰め合うなんて心臓が持たないと日本(イギリス)は早々に目をそらしたがイギリス(日本)は優しくそれを咎めた
「イギリスさん」
呼ばれた日本(イギリス)は促されるようにイギリス(日本)を見た、自分のものであって自分ではない声、いつもより低音のそれを聞いた瞬間首筋辺りにぞぞ、と嫌な痺れが這う、触れられてもいないのに疼く身体に不味い不味い不味いと日本(イギリス)は必死に邪な想いを打ち消そうと努力するがその甲斐も無く、肩に掌を置かれ日本(イギリス)は相手のこと以外考えられなくなる、触れられた箇所が熱い、その熱は波紋のように身体中に広がって日本(イギリス)の思考をじわじわと貪っていく、今まで日本からそういう意図で触れられたことの無いイギリスは今の状態に耐性が無くイギリス(日本)の行動をさらりと受け流すことなど到底出来ない、彼の一挙手一投足に心臓は狂ったように高鳴って胸を痛いくらい叩きつけている、半ば恐慌状態に陥った日本(イギリス)は完全に固まって動けない、まるで蛇に睨まれた蛙が如くその場に留まっている
「かわいい・・・」
頬に手を添えられているので瞳を逸らすことが出来ず日本(イギリス)は妖艶なイギリス(日本)の微笑を真正面から受け止めてしまう、吐息すら強烈に色気を含んでいて僅かに肌を撫でるその感触にすら耐えられないと相手を自分から遠ざけようと日本(イギリス)は腕を動かすがその腕は本来の目的を果たす前にイギリス(日本)によって取り上げられ、引き剥がすどころか腰に腕を回され互いの身体が密着するように引き寄せられる、相手の熱が自分にも伝わる位近い距離に眩暈を覚え、これ以上は勘弁してくれと日本(イギリス)は思った、そんな状態を知ってか知らずかイギリス(日本)は頬に添えた手をするりと撫でるように動かし相手の耳元へ口を寄せる
「そんなに固くならないで、力を抜いて・・・」
互いにしか聞こえない音量でイギリス(日本)は言ったが当の本人は告げられた言葉の甘さにさらに追い詰められて気が気でない、当然イギリス(日本)の言うとおりの事は出来ず日本(イギリス)は熱に浮かされたような掠れた声で小さく、無理だ、と呟いた
「ではそのまま聞いていて下さい」
その言葉を皮切りにしてイギリス(日本)は皆に聞こえる音量で日本(イギリス)に語りかける
「かわいい人、目を反らさないで、その美しい瞳にどうか私を映して」
「に、にほ・・・」
言葉にびくりと身体を震わせた日本(イギリス)は恐る恐る相手を見詰める、蕩けそうに甘く緑の瞳を細めたイギリス(日本)の視線に当てられてまた身体が疼く
「この瞳に映るのが私だけならどんなに良いか・・・貴方が他のものを見ているだけで嫉妬に狂いそうになる。この髪も目も身体も心も全て自分のものにして、叶うなら貴方をこの腕にずっと閉じ込めていたい」
仕草が視線が言葉がイギリスをじりじりと苛む、まるで理性を試されているような気分だった、身体の熱は留まる所を知らずもう沸騰しそうな位何もかもが熱い
「こんなに他人に自分の心を掻き乱された事など今までは無かったのに、罪な人・・・貴方の事ばかり馬鹿みたいに考えてもう狂いそうだ、貴方を手に入れる為なら例え私の全てを捧げても構わない」
イギリス(日本)は相手を煽るように甘い言葉を紡ぎながら徐々にその端正な顔を近付ける、身動きすれば互いの唇と唇が触れ合うすれすれの距離でイギリス(日本)はぴたりと静止し日本(イギリス)に最後の言葉を告げた
「お慕いしています、イギリスさん」
その言葉を最後に二人の唇が重なる、年上の余裕を感じさせるイギリス(日本)とは対照的に限界まで顔を赤く染めて相手の唇を受け止める日本(イギリス)、イギリス(日本)が王様ゲームの命令通り行動を初めて各国は静かに二人の成り行きを見守っていたがイギリス(日本)が日本(イギリス)から唇を離し、こんな感じで良いですか?とごく冷静に聞いたところで一気に歓声やら口笛やらイギリス(日本)に対するラブコールが飛ぶ
「ヴェーにほーん!かっこいい!!」
「お兄さんも口説いてー!!」
イタリアとフランスがイギリス(日本)に飛びかかり日本(イギリス)と距離が空いたのは結果的に良かったと言えるだろう、後少し遅ければ確実に日本(イギリス)は相手を押し倒していた、沈みきらない燻ぶる熱を持て余しながら我に返った日本(イギリス)は帰ったら覚えていろとうらみがましく国々に囲まれたイギリス(日本)を見詰めていた
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打ち上げが終わった後イギリスと日本は二人連れだって日本の屋敷へと戻る、タクシーに乗って屋敷に戻るまでの間終始無言を貫き通した日本(イギリス)はイギリス(日本)が家の扉の鍵を解除し扉を開け玄関に入るや否やイギリス(日本)を抱きしめた、身長差があるので正確には抱きついたような格好が歯痒いと内心思いながら日本(イギリス)は黒い瞳を不機嫌そうに歪め口を開いた
「お前、煽り過ぎだろ」
王様ゲームの命令であれイギリス(日本)の行動は明らかにやり過ぎだ、指摘すればイギリス(日本)はくすりと余裕のある笑みを浮かべる
「その位追い詰めなければ貴方は私を求めてはくれないでしょう?」
それが何を意味しているのかイギリスには痛い程分かった、朝顔には出していなかったものの日本もあのことを気にかけていたのだと思うとここまで後押しされなければ行動に移せない自分が嫌になる、相手の思惑通り触れたいという欲は留まるところを知らない、もう我慢の限界なんてとうの昔に超えている、触れることを許される場所に落ち着いてみたのはいいものの自分の身体は日本で日本の身体は自分のものだ別に自分の姿でも日本は日本であることに変わりないから良いのだが初めてはやはり自分自身の身体で相手に触れたい、会議の時完璧に自分の心を代弁したかのような言葉を言った日本だ、きっと今の自分の気持ちを把握しているに違いない、それにも関わらずこの仕打ちは厳しすぎるものがあるとイギリスは溜息をついた
「堪えて下さいね、これでも私色々と悩ませられたんですからちょっとしたお返しです」
「はは、これのどこがちょっとしただよ」
「ああ・・・いえ、まあ、お返しというよりは確認という意味合いの方が正確には強いですが」
「・・・どういう意味だ?」
置いてけぼりのイギリスである、そんな彼を見かねて日本は説明を始めた。
泊まる前に念を押されたにも関わらず蓋を開けてみれば触れて来ない、そんなイギリスを日本は正直な所を不安に思っていたらしい、もしかして泊まる前はあんなことを言ったにも関わらずいざ本番になるとやはり男では駄目だと思われたのかもしれないと漠然と思っていた。けれどそんな不安は昨日の夜イギリスが物欲しそうに自分の名前を呼んだことで和らいだが確証は持てない、だが事が事だけに面と向かって問い正す勇気もなくどうしたものかと悩んでいた時にフランスのあの命令だ、これは絶好の機会だと思った、自分が行動して相手から何も反応が得られないのであればもうそれは己に肉体的な魅力を感じていないことで間違いないだろう、恋人同士だから事に及ばねばならないという道理はない、想いが通じあっているだけでも自分は満足できるし恋人の在り方など千差万別だ、こういう関係もそれはそれで良いと思う、ただ僅かばかり空回りが虚しい、老いた爺の癖に年甲斐もなく心も身体も欲しいと全てを求めた相手だけに。まあ結局はそれも杞憂に終わった訳ですがと言ってイギリス(日本)は苦笑いした、対してイギリスは日本の言葉に少なくはない衝撃を受ける
「・・・ごめん、俺お前の気持ち全然分かってなかった」
自分で勝手に怖気づいて相手を不安にさせて日本は内面を上手く覆い隠すことが得意だって知っているのに自分ばかりで相手の気持ちを考えなかったし汲み取ってやることが出来なかった、本当に何やってるんだろうな俺、何度となく心中で呟いて来た言葉をイギリスは繰り返す
「俺、本当はお前に触れたくて触れたくてたまらなかったけど、怖かったんだ・・・」
どうして自分があれだけ触れ合うことを望んだにも関わらず彼に触れることを躊躇っていたのか今なら何となく分かる気がする、それはきっと
「俺、お前に触れたら最後、お前を壊しそうで怖かった。初めては出来る限り優しくしたいけど多分俺、そうなったら絶対手加減出来ない」
「・・・そう、だったんですか。でもそれこそ杞憂ではありませんか?今日入れ替わってみて分かったでしょう、私はそんなにやわじゃない・・・それに例え壊れたとして私は一向に構いませんよ」
言葉の続きを待つ日本(イギリス)にイギリス(日本)は悪戯っぽく笑いかけ声帯を震わせる
「言った筈です『私の全てを捧げても構わない』と」
その言葉はフランスの命令で日本がイギリスを口説くときに使った言葉だ、演技かかった台詞の中でもこの一言は紛れもない日本の本心であったことをイギリスは今気付く、顔が熱い、自分でも分かるほどそこに熱が集中しているのが分かるやっぱりこいつには敵わないなと思いながら赤い顔そのままにイギリスは笑った
「お前それ、反則だろ」
自分と相手の想いを確認した今相手に触れたくて仕方ないイギリスだが先も述べた通り初めては自分の身体が良いらしく暫くそういったことはお預けだ、半年我慢出来たんだ大丈夫だ耐えて見せる、と相変わらず自己主張の強い熱を宥めすかしそれに日本にあんな想いをさせた俺の罰はこれがふさわしいだろう、とイギリスは苦笑いした。暫くこの状態は解けないだろうと思う二人にだったが予想に反してこの数時間後日本(イギリス)が転びイギリス(日本)の頭に自分の頭を打ち付けた結果入れ替わり状態は解けることとなる、が、それはまた別の話だ
2011.12.29
あとがき
(これで完結です、長い間御付き合い下さった方々本当にありがとうございました)