帝国の長い夜
先の日の戦で我が国は負けた戦勝国は不平等な条約を結ばせるわけでも領土を好き放題使う訳でもなくたった一つだけ私達に要求をしてきた、その内容とは私を捕虜として自国の化身である大英帝国の屋敷に住まわせるというものだった。その条件さえ呑めば他には何も望まないというのだ、その破格の条件をこちらが呑まない筈がない上司は私にすまないと言ってくれたが私にしてみれば自分の身一つで自国が侵されないのであればこれ以上の事はない。気に食わない相手の屋敷に住まわされるのは少々気に障ったがそんな事など些細なものだ。そうして私は必要最小限の荷物と身一つで異国の地を踏む事となった
そうしてこの屋敷に住み始めて5日、大英帝国は相変わらずいけ好かないが予想外な事に酷い扱いを受けたりする事は無かった、毎日朝昼晩と彼とまずい食事を共にする以外大英帝国と私が会う事は無い、屋敷の中は基本的に私は私室と図書室、庭以外を出入りする事は出来ないが本があれば幾らでも時間を潰せるので退屈する事なく寧ろ割と快適に過ごせている
ただ問題が一つある、夜草木が眠る丑三つ時だろうと夜明け前だろうと私はここが敵地であるという警戒心がまだ抜けていない為どうしても目が冴えて一向に眠る事が出来ないのだ、一日目、二日目は本を読んで時間を潰した、慣れれば平気になるだろうと私は思っていたがその考えは甘かった寝不足で若干ふらふらつく体をベットに沈めもう流石に眠れるだろうと思った三日目、だが私はその日も眠る事が出来なかった、四日目は朝から部屋で素振りをしたりして一日中活動的に過ごしてみた、運動して疲れれば眠れると思ったからだ、けれどそれは疲労を蓄積しただけでまたしても私に眠りは訪れなかった、そして現在5日目の朝、正直頭は重く体はふらふらだがそれを相手に悟られるのは癪なので涼しい顔を装い、ここ数日と同じように大英帝国とたった二人で向かい合って食事を取る、相手は余程物好きなようで大して会話をするわけでもない私とする食事を一回たりとも欠いた事はない、それはまた今日も同じなようで無言のままカチャカチャとナイフやフォークと食器が触れ合う音だけが部屋に響く、あらかたその不味い食事を片付け終わった私は自分に注がれている視線を感じてちらりと大英帝国の方を見遣る
「英国では食事の際相手に不躾な視線を送るのがマナーなのですか?」
睡眠不足の所為で苛立ちやすくなっているのは自分でも分かっている、けれどだからどうという訳でもなく私は不機嫌さをそのまま出し大英帝国に問い掛けると相手は眉間に皺を寄せる
「ああ?極東の猿は随分と躾がなってないみてえだな、俺が躾なおしてやろうか」
「下卑た笑みを浮かべるな気分が悪い」
正直喋る度に頭痛がして今は言葉遊びをする余裕が無い、私は吐き捨てるように言って会話を切り上げ席を立つ、今はとにかく私室で休みたい、私の行動を大英帝国はじ、と見るだけで咎めはしなかった
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「あいつ・・・」
一人食卓に残った英帝は日帝の様子を思い返していた、いつもは真珠のように白いその肌は青白く、光の灯った夜の様な瞳はどこかぼんやりしていて食事の際今日はフォークやナイフを使うその手がおぼつかないようだった、極めつけは目の下に出来たクマだ、数日前から出来ているのは知っていたが本を読んで夜更かしでもしているのだろうと大して気に留めていなかった、だがそのクマは濃くなるばかりで一向に消える気配が無い、これは今夜あたり様子を見に行ってみる必要がありそうだ
英帝は日帝に出しそびれた自分の淹れた紅茶をごくりと飲みほした
2011.08.17
あとがき
(ずっと書こうと思っていた英帝×日帝の話、殺伐にあんまりなってないですね)