大切なのは

ああ、ああ、嗚呼、また一つ皆の体に傷がつく
前線で戦っているルートビッヒさんと王さん、アルフレッドさんは他の方よりも多くの傷を負っている、全身ぼろぼろなのに後方の 私達が少しでも傷付かないようにと懸命に前を向いて戦い続ける、フェリシアーノ君は前線の方が戦いやすくなるように敵の防御力や 素早さが下がるような魔法を使う、いつもなら白旗を振って後援の方々の後ろで泣いているというのに今は 例え敵の魔法攻撃が己の頬をかすろうと泣き事一つ言わずそこに立っている、その隣に立つフランシスさんは前衛の三人の回復に努めている様子だが回復を上回る速度で攻撃されるので生傷は増えていくばかり、後方のイヴァンさんとアーサーさんは先程から 大技の魔術を使う為詠唱を続けている、イヴァンさんの周りには雪の結晶が舞い散り、アーサーさんの足元には緑色に光る魔法陣が浮かび上がり そこからまばゆい光が溢れ出してきている、だが詠唱している時二人はとても無防備になる本来なら前衛が二人を守りながら戦うのだが、今回の 敵は恐ろしく強くあの三人をもってしてもその攻撃を防ぎきれない、だから時々後方にも敵の魔法攻撃が飛んでくる事だってあった、さっきはアーサーさん目掛けて 光球が降って来た為直撃したアーサーさんの頭からは未だに血が流れている、それでも彼は静かに瞳を閉じ詠唱を途切れさせる事は無かった、イヴァンさんは滅多に戦闘で怪我をする事はなくいつも服に皺一つつけずに戦っているのに今回に至ってはボロボロだ、いつもの底のしれない笑顔は今日ばかりはない
皆必死に力を合わせて戦っているというのに私は戦いに参加する事が出来ない、その事実にギリ、と歯を噛みしめる、私はこの間の戦いで敵に呪いをかけられてしまった、例えば私が魔物と戦う時その腹に日本刀で攻撃したとする、そうすると私の腹が日本刀で切られたかのように痛むのだ、敵に与えた痛みが自分に跳ね返ってくる呪い、それは敵が死ぬ間際に私にかけたもので本来呪いというものは呪いをかけた本人を倒してそれを解くのだが私に呪い掛けた本人はもうこの世にはいないのでその方法は使えない、自分の死と引き換えにかけられる呪いは他の呪いと段違いに強くまじないに詳しいアーサーさんでさえもその解除には時間がかかるとの事だった、だから私は今回は戦うなと戦闘パーティから外された上に、絶対に戦闘に参加出来ないようにとイヴァンさんに駄目押しで動きを封じる魔法をかけられてしまった、だから今は身動き一つ出来ず一番後方で皆が傷付いていく様を見ている事しか出来ない

痛みが、なんだ、皆が傷付いていく所を見る方が何倍も辛い、私も戦闘に参加して皆を守りたいのに体はちっとも動かない、その悔しさから私は唇を噛みしめ俯いた

「ッ!イヴァン!!」

アーサーさんの叫び声がしてそちらを見れば敵の魔法攻撃をもろに食らってしまったイヴァンさんがその場に倒れていた、それを見た瞬間私の頭の中で何かが弾ける音がした

「畜生!!よくもやりやがったな、絶対ぶっ殺してやる!!」

隣のイヴァンを倒され心の奥底から湧き上がる怒りにまかせて俺は毒付いた詠唱に手間取ってしまったがそれも後少しだ、持てる魔力を最大限駆使して敵である巨大なキマイラにひと泡吹かせてやると意気込んだその時だった、俺の横を誰かが通り過ぎた、いや俺の後ろに居たのは菊一人だけだでも菊は戦闘に参加出来ないようにイヴァンが魔法を・・・いや今イヴァンが倒されたからその魔法が解けてしまったに違いない、不味い菊が今戦闘に参加したら

「菊!!止めろ!!」

俺の言葉を無視して菊は歩いていくすれ違う瞬間見た菊の表情は背筋がゾッとする程冷たかった

静かだ、先程までは戦いの所為で轟音があたりに響いていたというのに今は何も聞こえない倒れていたイヴァンさんの姿が 頭の中にぱっと浮かんで消えるさっきはアーサーさんの横を通り過ぎたアーサーさんも怪我をしていた、途中彼の声が聞こえた様な気がしたが 気の所為だきっと、フランシスさんは私の姿を見て目を丸くしフェリシアーノ君は私に気付くと慌ててこちらに駆け寄り何か喋っていた様だが私にはその音が聞こえない、必死な様子の彼には悪いと思ったが彼を無視して前衛の皆さんの所へと歩く

「菊止めて!!行かないで!!」

私には何も聞こえない



「この!!いい加減倒れろアル!!」
「そろそろきつくなってきたな・・・」
「HAHAHA!!もうギブアップかい?・・・って言いたい所だけど俺も、もう」

敵も大分疲労している、前に比べれば魔法攻撃も少なく動きのキレもないけれどその比では無い位アルフレッド達も疲弊していた、 回復アイテムも無ければフランシスも魔力を消費しすぎて回復魔法が使えない、今まで例えピンチといえる状況に陥っても明るかったアルフレッドが初めて見せた焦りの表情、何よりもそれが現状を物語っている、そんな時3人の隣を何かが通り過ぎるそれを見た3人は一様に目を丸くし驚いた

「本田!何故ここに・・・!!早く戻れここは危険だ!!」
「そうだよ!俺達なら大丈夫だから菊は後ろで応援してればいいんだぞ!!」

二人のその言葉に全く反応する事なく菊は真っ直ぐにキマイラに向かい歩いて行く、目の前に来た獲物を見たキマイラはグルルルル、と低く唸り次の瞬間には菊目掛けて巨大な前足を振り上げる

「菊ッ!!!!」

王の悲鳴が辺りに響いた



気付けば私は前衛の皆を通り過ぎ巨大なキマイラの前に立っていた、キマイラに襲われ私は躊躇わずその前足を日本刀で切り捨てる、 自分が敵に与えた痛みが私を襲ってくる筈なのに何故か今全く痛く無い、そんな私の頭に皆の姿がフラッシュバックする
地に倒れたイヴァンさん、頭から血を流すアーサーさん、擦り傷だらけのフェリシアーノ君、自慢の服をボロボロにしていたフランシスさん、 傷だらけで今にも倒れてしまいそうな王さん、ルートヴィッヒさん、アルフレッドさん、全部目の前に居るこの魔物の所為で、腹の底から湧き上がってくるこの感情を何と呼ぶのだろう体の中で暴れる獰猛な獣のような激情を私は押し殺さない事にした

「責任取って下さいね」



それからの菊の攻撃は凄まじいものだった、洗練された太刀筋で舞うように相手を切りつけていくキマイラの攻撃をかわしその蛇のような 尾を切り取るとキマイラはその痛みに悲鳴のような声を上げ逃げ出そうと背中の翼を広げたが菊はそれを許さなかった、素早くその背に飛びのり 両翼を根元から切り捨てる、そこから噴き出した血が菊の白い軍服を汚そうと菊は眉一つ動かさない、体に激痛が走っている筈なのに冷淡なその表情を崩さない菊に仲間は背筋が寒くなった、弱った相手にも菊の手がゆるめられる事はなくキマイラは遂に力なく地に横たわるだけの状態になってしまう、それでも菊はその体に刀を振るう、ザシュ、ザシュと切り付ける度にキマイラの体から血が噴き出すがキマイラはもう反応しない、普段の穏やかな菊からは想像も出来ない行動にフェリシアーノを除く6人は動けないでいた

「止めて!!もう止めてよ菊!!もう終わったんだよそれにそんな事してたら菊が死んじゃうよ!!!」

キマイラはもう虫の息だ、ここでキマイラが死んでしまえば菊の体にかかる負荷は計り知れないもしかしたらショック死だって あるかもしれない、泣き叫びながら菊の元へと走るフェリシアーノの言葉で漸く硬直の解けた6人は菊の元へ向かう、一番早く菊の元に 辿り着いたルートヴィッヒがその右腕を掴む

「止めるんだ本田!!そんな事をすればお前もただでは済まない」

日本刀から滴る鮮血がルートヴィッヒの腕にも伝う、菊はキマイラから目を離しルートヴィッヒの方へと顔を向ける 表情はまるで機械なのかと錯覚するほど無表情で刀と同じく血塗れだった

「離して下さいまだ息があります・・・」
「本田!!」

聞きわけのない事をいう菊にルートヴィッヒは語調を強める

「嫌です・・・」
「?」
「皆さんが傷付くのは嫌です・・・」
「本、田・・・」
「皆さんを私が守らないと・・・」

菊の様子にルートヴィッヒがたじろぎ腕の力が緩んだ際に菊は振り上げた日本刀をキマイラの首目掛けて振り下ろす

「守らないと・・・」

振り下ろされた日本刀がキマイラの首に届きそうになった時横から手が伸びその日本刀を掴む

「フェリ、シアーノ、くん・・・」
「菊は俺達を守ってくれたよ、大丈夫皆無事だから」

日本刀を素手で掴むフェリシアーノの手からは血が流れ出し刃を伝ってそれはポタリ、ポタリと地面に落ちる、それでもフェリシアーノは 痛みを顔に出さず菊に向かって笑いかけ優しく言葉をかける

「菊お疲れ様、もう休もうよ、俺もちょっと疲れちゃった」

はは、と常よりも力無くフェリシアーノは笑う、日本刀を掴んでいる方とは逆の手でフェリシアーノはゆるゆると菊の頭を撫でた、 いつも菊がフェリシアーノを撫でる時のように優しくありったけの愛を込めて

「早く宿に戻って皆でシエスタしたいなすっごく頑張ったから一日中寝てたって 神様はきっと許してくれるよ、ね?」
「フェリシアーノ君・・・」

ぼんやりとした思考に光が射し音が戻ってくる、今ならちゃんと彼の声が聞こえる私が彼に喋りかけようとしたその時だった

「ーーーーーーーッ!!!!!」

体に訳が分からない程の激痛が走り私は意識を遠くに飛ばす、消えていく意識の片隅で皆の叫ぶ声が聞こえた気がした





それから私は三日間眠り続けていたらしい、宿屋のベッドで目を覚ました時傍に居たアーサーさんが驚いた様に目を丸くした後 ぶわ、と涙を溢れさせ号泣した時は本当に驚いた、その声を聞きつけて次々と私の周りに仲間が集まる、フェリシアーノ君はがばり と私に抱きつきルートヴィッヒさんも心なしか目を潤ませていた、アルフレッドさんは見舞いの品としてたくさんのハンバーガーを私に渡し、 フランシスさんは美味しいご飯が出来ているから後で食べてねと私に言いウインクする、王さんもアーサーさんと同じくいやそれ以上にわんわんと泣いて 、良い歳して何やってるんですかと呆れ混じりに言えば、菊がいつもの菊アル!!と訳の分からない事言ってまた涙をあふれさせる、そんな状況の中皆と少し離れた所にいイヴァンさんは立って私に向かって笑い掛け手を振った





―数日後―




「本田、出発するぞ」
「はい、今行きます!」

冒険の時に起きた出来事を付けている日誌に書き込む手を一度私は止めルートヴィッヒさんに返事をした、そろそろ宿をたつ時間だ急がないと

あ、書き忘れてしまう所でした、私はあのキマイラと戦っている時イヴァンさんが倒れた所までは覚えているのですが、そこから先はさっぱり覚えていません、皆さんにその事を話すと皆一様に思い出さなくて良い事もある、と言って何が起きたかは話して下さいません、イヴァンさんが倒された時は本当にどうなる事かと思いましたがでも今ここに全員が無事に居る事が何よりなので私はその事について言及するつもりはありません

最後に一文を書き加えて私は日誌をパタンと閉じカバンに入れ部屋を出る

「菊、もう体の調子は大丈夫か?」
「ふふ、アーサーさん心配し過ぎです、もうピンピンしてますよ」
「Hey!!菊!!王に何か言ってくれよ!!この街を出る時にハンバーガーを買おうって言ったら凄い勢いで止めてくるんだぞ!!」
「当たり前アル!!お前自分がどんだけ食べてるか分かってるアルか!?そんなんじゃすぐお金が無くなるアル!!あ、でも菊は 何か欲しいものがあればにーにに言うよろし」
「贔屓は良く無いと思うんだぞ!!」
「はー相変わらずうるさい奴らだね、菊ちゃん大丈夫?」
「もう慣れましたよ」
「本田君」
「あ、イヴァンさんどうかしました?」
「ううんごめんやっぱり何でもないや」
「?」
「お前ら静かにしろ!!街を出たらこの先にある森を抜けて次の目的地まで移動する、その間本田はくれぐれも大人しくしているように!以上だ!!」
「ルートヴィッヒさん、それは何度も言われたので分かっていますよ」
「ヴェー菊は俺と一緒に白旗振って皆を応援しようね!」
「フェリシアーノ今回お前は戦闘組だろうが!!」
「ヴェヴェヴェ、ごめんルート分かったからもうぐりぐりしないでえ!!!」

― 一つ確かな事は私はこの先もずっと皆さんと旅を続けていくという事、それさえ変わらなければ良いのですから ―





2011.08.17





あとがき
(この話、すごく・・・厨二です・・・。考えていたオチは思いっきりギャグでしたが文字を打っている時に聞いていたBGMの影響でシリアス展開になりました、ですがギャグ展開も捨てきれないので別バージョンとしてupしようと思います)