「好きなんだ、君の事がずっと前から」
いつもの底抜けの明るさはそこには無い空色の瞳を切なげに細めてアメリカさんは静かに私に告げた、常ならぬ彼の状態からそれが友情での好き、で無い事はそういった感情に疎い私でも嫌と言う程分かる、好きだと言われて訪れたのはやはり困惑だ、彼は私にとって孫のような存在であったし彼と私は同性で一度たりともそのような目で彼を見た事は無い
「答えは今すぐじゃなくて良い、日本の中で返事が固まったら話してよ」
戸惑う私を見越したようにやわらかな声が降り注ぐ、それははぐらかされる事も許容した逃げ道の多い選択肢、こんなの全然らしく無い、いつもの様に反対意見は認めないと押し切ろうとしない彼を見れば声と同じくとても優しい表情をしている、それは大人の顔だいつもの子供っぽいイメージを払拭するには十分すぎる程の、まるで彼が知らない人になってしまったようで胸がつきりと痛む、知らぬ内に子供だ子供だと思っていた我が子がいつの間にか大人になってしまっていたのを感じた時親はこんな気分なのだろうか、彼の言葉に頷いた私にじゃあまた、日本と声をかけてアメリカさんは玄関から出て行く、残された私は溜息を一つついてこれからどうすべきか吟味していた
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それから数日後世界会議が行わる為気持ちの整理も碌に出来ないまま私はアメリカさんの家に足を踏み入れた、会議場に行くと既にアメリカさんが来ていて私は驚く、今までなら自国で会議が開催される時でさえ会議に少し遅れて来るのがいつもの彼だったから私よりも先に来ているとは思っていなかった、あんな事があった後だ出来るなら心構えをする時間が欲しかったけれどもう会ってしまったのだから後の祭りだ、どう話し掛けようか迷っていた時アメリカさんは私を見るなり破顔し手をぶんぶんと大きく振った
「やあにほーん!!元気だったかい?そうそう君のとこで最近発売されたゲームの事なんだけどさ、あれすっごい面白そうじゃないか!!当然君も買ってるだろ今度それ俺の家に送って来てくれよ!!勿論反対意見は認め無いぞ!!」
矢継ぎ早に話しかけられた私は唖然としてしまう、ここ数日間私の悩みの種というより思考を占拠していたのはあの大人びた様子のアメリカさんだったのでいつもの彼のペースをつい忘れてしまっていたし、また会えばあの時の彼の様な態度を取られると思っていたので今のアメリカさんの状態は完全に予想外だった、告白した時の事を一切匂わせない態度、彼が私に告白してきた出来事は私の妄想だったのではないかと思えてしまう位彼の代わり身は凄かった
「おーい、日本?どうしたんだいぼーっとしちゃってさ!」
「あ、すみませんアメリカさん・・・今度新作ゲームお家に送らせて頂きますね」
「流石日本!頼んだんだぞ!!」
快活にアメリカさんは笑って私の肩を軽く叩く、そこに来たばかりのドイツさんが挨拶をしに来て続いて中国さん、ロシアさん、そしてイギリスさんとフランスさんがお互い肩を小突き合いながら会議室に入って来た
「・・・ん、アメリカお前が早いなんて珍しいな」
「だって俺はヒーローだからね!くたばれイギリス!」
「な!んだとこらあ!!お前毎回毎回会う度くたばれ言いやがって」
「いいぞーアメリカーもっと言えー!」
「髭はそんなに寿命縮めてえのか、覚悟しろよ」
「日本ー助けて!お兄さん極悪現ヤン眉毛にふるぼっこされちゃう!!」
「あ、てめえ日本の後ろに隠れやがって!」
「まあまあイギリスさん落ち着いて下さい」
あっという間に二人だけの会議室は国々が集まりいつものように賑やかになった、このいつも通りの空気にのまれて私はあんなにも頭を悩ませていたアメリカさんの言葉をすっかり頭の片隅に追いやってしまっていた
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いつものように会議ではアメリカさんが場を仕切りアメリカさんの意見にイギリスさんが反対して二人の意見にフランスさんが反対、脱線し続ける会議をドイツさんが一喝し場をおさめシエスタしていたイタリア君を起こし気付けば会議終了時刻、今日も今日とて何も進まない会議が幕を閉じた、私はアメリカさんの家で会議が行われた時は皆が帰った後、彼と一緒に会議室の後片付けや戸締りをしていたのでいつもの癖で今日も同じように二人だけ会議室に残り戸締りをしていた、朝彼と二人きりになって気まずい思いをした事は忘れてしまっている私は彼と二人きりの状況を何の抵抗も無く過ごしていた、最後の窓が施錠されている事を確認した私はすっかり夕焼け色に染まってしまった空を窓越しに見上げるきらりとそこに一番星が光っているのを見てもう日が暮れると寂寥感を覚えていた時だった、窓に映る自分の後ろにアメリカさんが現れて彼も施錠を確認し終わったのかと声をかけようと口を開いた瞬間、突然アメリカさんが私の肩を掴み彼の方へ体を向けさせると苦しくなる程の力で抱きしめられる、予想外の行動に驚いた私が目を丸くしている間にアメリカさんは顎に手を添え固定すると顔を少し傾けて近づいて来る、キスされる、と瞬時に思った、自然に伏せられた瞳が異様な程色っぽくてぞく、と体に鳥肌が立つ、相手の吐息を間近で感じる、唇が触れると思ったその瞬間それは軌道を変えて私の耳元へと寄せられた
「無防備過ぎるよ、日本・・・俺だって男なんだ、告白した後二人っきりで居るなんて誘われてるって勘違いしても仕方ないだろう」
「な、そんなつもりは・・・」
「うん、分かってる」
アメリカさんに体を解放されその姿を目にすると彼はあの告白してきた時のような落ち着きを纏っていて、ああ彼は私が気を遣う事が無いようあのように振る舞っていたのかと一人悟った、それと同時に彼の配慮に気付かなかったばかりか告白の事すら無かった事にしていた自分を申し訳なく思う、アメリカさんそんな私を見て悪戯っぽく笑った
「でももうあまり俺の前で無防備な姿で居ないでくれよ、頼むからさ」
私の頬に筋張った手が添えられ親指でゆっくりと感触を確かめるように唇をなでられる、ぞわりと悪寒が走った
「多分今度は止まれない」
脳に浸透する甘味を帯びた声は紛れもない彼からの最終警告だった
2011.08.21
あとがき
(空気読むアメリカの話でした、アメリカが恋愛に本気出したらどうなるのか考えた結果がこれだよ、何パターンか考えたのですが普段は自由奔放だけれどふとした時イギリス仕込みの紳士さだとかが発揮されるといいなあと思って比較的紳士なアメリカにしてみました)