捕食者の瞳

日本と俺は残念ながら友人の枠を出ない関係だ、でも俺は日本に少なからずそれ以上の好意を抱いている、 日本ともっと仲良くなりたい、もっと色々な所を知りたい、出来ればまたあの同盟時代のような 関係、出来ればそれ以上の関係になりたいと俺は思っていた、素直じゃない性格の所為で随分と 遠回りをしてしまったが今では互いの家に行く時何の理由が無くても相手に訝しがられずに受け入れられ るまでになった、一歩日本との関係が前進したと、今日も特に理由も告げずに日本の家に邪魔させて貰っている この状況に俺は幸せを噛み締めた

「それじゃあ、お茶を淹れて来ますね」

突然訪れた俺に嫌な顔一つせず日本はそう言って客間を出て行く、これは大分心を許してくれていると考えても 良いだろう、以前アメリカやフランスが日本の家を突然訪ねたら追い返されたという話を聞く限りこの考えは 俺の独り善がりなんかじゃない筈だ、あの他人とは一定の距離を置く日本が俺に心を許してくれていると考えると 思わず嬉しくなって口元が波立つ、緩む表情を引き締めようと俺は数回首を振った、日本は今でも俺の事を紳士だと 考えてくれている数少ない国だ、その期待を裏切りたくない、客間で一人にまにましているなんてどう考えても不審者 じゃねえか、その時不意にいつもは嗅いだ事が無い甘い香りが鼻につく、何だこの香り、時々日本の家でお香が焚かれている 事があるがこの香りは嗅いだ事が無い、ふと部屋の端に目をやると香炉が目に入るそこから香りがしているようだ、いつも ならもっと控え目に焚くのに今日はやけに香りが強い、もしかして俺が来る前何か部屋に香りが残るような事をしていたのだろうか 例えば焼き魚とか、香炉の香りがいつもより強いだけだ俺は深くは考えずに日本が来るのを待った、後でこの事を後悔するとも知らずに





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日本が出て行って10分くらい経った時俺は自分の体の変化に戸惑っていた頭がくらくらして体の芯が熱い、来る前 どこも体調は悪くなかったのに可笑しい、そう思いながらもそのまま過ごしていると胸がきゅう、と締まる様な感覚が して息も次第に乱れて来る

「あれ、おかしいな、俺どうしたんだ?」

まるで酒に酔った時みたいに思考が熱に溶かされていく、その時またあのお香の香りが強く香ってその甘い香りに 体がずくん、と疼く、この疼きは熱だとか病気の時に感じるものじゃなくてもっと別の性質が悪い方のものだ、 そう知覚した瞬間血の気が引く、俺は人の、日本の家で何て状態になってるんだ、甘い香りを嗅ぐ度に疼きが酷くなって 腰のあたりがじん、と痺れる、これは不味いだろ、と俺は香りを嗅がないように部屋を出ようと思った時には既に遅く 力が入らなくなった体は俺の意思に反してぐらりと傾きそのまま倒れてしまう、熱い、苦しい、倒れたまま荒い呼吸を 繰り返しているとじわりと涙が目じりに溜まる、あつい

「あら、もう効いたのですか」

涼しげな声が頭上で聞こえて俺は声の主を見上げる、盆にお茶を乗せた日本は普通じゃない俺の状態を見ても驚くどころか 笑みを深くした、熱に浮かされた頭は碌に考える事が出来ない、俺は横たわったままこの状態から助けて欲しくて必死で声を 絞り出す

「あ、にほ、ん・・・」
「かわいらしいこと」

盆を机に置いて日本は横たわる俺に覆いかぶさり頬に手を添える、するりとそこを撫でられて肩が震えた俺を 日本は上機嫌そうな瞳で見降ろしていた、紛れもない捕食者の瞳で見つめられ自分の立場を理解した俺は 獲物の気持ちが嫌という程理解出来た

「お慕いしています、イギリスさん」
(ああ、食われる・・・)

押し寄せてくる熱に思考を奪われながらも近づいて来る唇を見て俺はふとそう思った





2011.08.22





あとがき
(イギリスに任せたままだと焦れったかったので自分から動いた日本の話でした、部屋で焚かれていたのは媚薬的な何かです)