お久しぶりです初めまして

その日蔵掃除をしようと思ったのは単なる思いつきで特に深い意味は無かった、たまにまだ片付けていない事を思い出しては掃除する事を先延ばしにしてきた蔵の中、だが今日はたまたま用事の無い週末の二連休の一日目で特にする事も無かったので掃除でもしようかと考え蔵へと白羽の矢が突き刺さった、埃っぽいそこへ足を踏み入れると碌に整理もされず乱雑に積み上げられた物の数々が私を出迎える、これを全て今日中に片付けるのは無理だとしてもせめてどこに何があるか把握できる程度には整えておきたい、そう意気込んで私は腕まくりをした





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あの時は絶対置いておけば何かの役に立つと思っていて結局使う事無く置かれていた物だとか年代物の骨董や昔お祭りで取った景品までありとあらゆる物がこの蔵には置かれている、正直ここまで雑多に物が詰まっていると思わなかっただけになかなか掃除に時間がかかる、がらくたに見える物でも思い出があると愛着が湧いて捨てられなくなってしまうからついつい物が溜まってしまう、自分の悪い癖だと自覚しながらそれはなおす事も出来なければなおす気も無いのでどうしようもない、棚の埃を払いながら考えているとふと私の目に木箱が飛び込んで来る、色褪せた紫色の紐で封をされているその箱に入っている物は何だったか私はもう覚えていない、好奇心に駆られて紐を解き上蓋を外すとそこには直径15cm程の円形の鏡が上質な布で囲まれ鎮座していた、鏡の外側数pは銅のような鉱物で囲まれている所に歴史を感じる、箱から取り出し裏側を見ればそこには巧みな意匠が凝らされていた、これが博物館や神社に祭られていても何の遜色も無い程神聖な雰囲気がある鏡だ、何故こんなものが自分の家の蔵になんか眠っていたのだろうかと不思議に思いながら鏡が付いている方を向けそこに自分の顔が映った瞬間鏡の表面が水面のように揺らめき発光を始める、突如訪れた非科学的な現象に驚き鏡を取り落とすとそれは一際強く輝きその眩さに目が眩んだ

「一体何が・・・」

光がおさまったのを感じて恐る恐る目蓋を開いた私の目に飛び込んで来たのは目を疑いたくなる光景だった、今まで誰も居なかった筈の空間に突如として黒と金で彩られた軍服を身に纏い、鞘に収められた日本刀を腰に携えた私と瓜二つの顔を持つ男が現れる、恐らく私は彼の名を知っている、恐ろしい事だがきっと私の憶測は間違ってはいないだろう大日本帝国、と呟けば目の前の男は一瞬目を丸くした後面白そうに口元を歪めた

「ご明察感謝します、ついでにどういう事だか説明して頂けると助かるのですが?」
「戸惑っているのはこちらも同じです・・・何で過去の自分が現代に、いや、そんな事は・・・でも」

目の前の男は私が過去、大日本帝国と名乗っていた時代に着ていた軍服を身に付けている上自分が大日本帝国だという事に同意した、これは過去の自分だという事には間違いないだろうがどうしてここに居るのか理解出来ない、鏡が光った後彼が現れたのだからこれは鏡の効力と考えるのが妥当だろうか、いや妥当な筈が無いここは現実世界であって決してゲームの中では無い二次元でならともかく三次元でこんな事は起こり得ない、だが頭の中に天使の姿をしたイギリスさんが星形のステッキを振って奇跡を起こしている姿が瞬時に過り私は嘆息する、これもまた彼の言う奇跡のなせる業なのだろうか、だとすればこんな事ではなくもっと別の生産性のある事柄に起きて欲しいものだ

「さっきから何を考えているのです?」

すらり、と引き抜かれた日本刀が冴え冴えと光る、それを首筋に当てられて私は息を飲んだ

「私待たされるのは嫌いなんです、早急に今の事態を分かっている事だけで構わないので述べて頂きたい、ああですがまず最初にこの質問に答えて頂きましょうか?」

瞳に剣呑な光を宿して過去の私は顎下につつ、と日本刀を移動させ峰の部分を使い私の顎をくい、と上げさせる

「貴方は私の敵か味方か?前者なら―」
「私は貴方の敵ではありません、刀を収めて下さい」

相手が言い終わる前に負けじと睨み返して言えば過去の私は素直に刀を元に戻しくすりと意地悪く笑う

「そんな顔しないで下さいよ、少しからかっただけじゃないですか」

大日本帝国の言動を見て先程から感じていた違和感が膨れ上がる、彼は過去の自分にしては態度があまりに高慢過ぎる、言葉の端々から伝わってくる好戦的な性格も違和感を助長させた、大日本帝国時代は大分世間知らずな言動を取っていたが今のこの私の性格と大差無かった筈だ自覚が無いだけで高慢な発言もしたかもしれない、だがここまででは無いだろうそれに何より私は過去一度とて初対面の相手に刀を向け嘲笑うような態度を取った覚えは無い、姿形は過去の私そのものだが内面はまるで別人のような目の前の私に私はある一つの仮説を立てる、選択による世界の分岐、よく二次元のネタにされるような話しだ、例えば私は塩鮭が食べたいと思い冷蔵庫を覗いても塩鮭が無かったとする、そこで出てくるのが選択肢A:塩鮭を買いに行く、B買いに行かない、だ、この時私がした選択により私が塩鮭を買いに行かなかった世界Aと私が塩鮭を買いに行った世界Bが生じる、このように選択により世界は無数に分かれていき今私が居るこの世界とは別の世界が存在していると考えれば彼の存在も説明出来る、私が選ばなかった方の選択肢を選んだ自分ならば性格の違いも理解できるつまり彼は平行世界の過去の私という事だ、そこまで考えて私は一旦思考を打ち切った

「ここで話すのも何ですし家に上がりましょう付いて来て下さい」





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客間に大日本帝国を上げてお茶を出し私は彼が現れるまでの一連の流れそして彼に対する仮説を述べた、そして彼について二三聞いてみれば案の定私の過去と一致しない事を言っていたのでお互いこの仮説の信憑性は高い物として判断した

「まるで狐につままれたような気分ですよ、まさか別世界の未来に来る日が来ようとは長年生きて来ましたが予想だにしませんでした」
「それには私も同意します」
「それで現状が理解出来たのは良いのですが、一つ問題があります・・・私が居た元の世界への帰り方を日本は知っていますか?」
「すみません今の所はまだ何も分からないのでなんとも・・・」
「来た方法も分からなければ帰る方法も分からない、と、これは少々困りました、でもまあ来る事が出来たなら帰る事も出来る筈です」
「・・・随分楽観的な考えですね」
「悲観的になっていても仕方ないでしょう?それより今は精々この状況を満喫した方が建設的ではありませんか?」

くすり、と上品に笑って大日本帝国は向いから手を伸ばし私の顎下に添える

「お互いに、ね」

そのまま顎下をくすぐるように撫でられて肩が震える、鳥肌が立つような手付きで大日本帝国は私の撫で続ける、猫のように私を扱う彼の真意は分からないが取り敢えずその不穏な手付きをする手を離そうと払いのければ上機嫌に彼は喉奥で笑った、その表情は私が睨み返しても変わらない

「何がそんなに可笑しいのですか」
「顔立ちは同じなのに別世界の私は随分と可愛らしい反応をするのですね」
「か、可愛らしい・・・?自分相手に何言ってるんですか」

相手の言葉の意味が分からず眉を顰めるとくすくすと笑って彼は徐に机の上に身を乗り出すと私の両頬を手で包み顔を近づける、相手の睫毛の一本一本まで鮮明に見える位置まで顔を近づけられ耐え切れず私が彼の体を突き離そうと腕を伸ばすがその前に口付けられ私は目を見開く、私をからかうつもりで顔を近づけているのだろうとは思ったが口付けられるとは思いもしなかった、唐突な行動に真っ白になった頭は正常に動かず抵抗する事なく私は彼の行動を受け入れてしまう、何度も角度を変えて口付けられる舌でべろりと唇の形をなぞるように舐められ体が震える、好き放題口付けた後大日本帝国はちゅ、と最後にリップ音を立てて顔を離した

「ほら、可愛らしい」
「貴方、何を・・・!!」
「ふふ、私可愛らしいものは好きですよ」

愕然とする私を無視して男は目を細めて言った、右も左も分からない彼を追い出すわけには行かないので元の世界に帰る方法が見つかるまでは私の屋敷で面倒を見る事に必然的になるだろう、生活を共にするにあたっては気に入らない相手よりも気に入った相手の方が精神衛生上良いのだろうが気に入られ過ぎも考え物だと私は一人思った





2011.08.26





あとがき
(続きます、次回はR指定になる、はず・・・この話の大日本帝国は自分大好き(ナルシスト)で性に奔放なので自分(日本)相手でも美味しくぺろりと頂けますきっと)