同棲はじめました―お風呂編―

食事後大英帝国は自室に戻りソファに腰掛けていた、身体はゆったりとソファの背に預けられているというのに眉間には深く皺が刻まれているどうやら不仲な相手に嫌味な程に甲斐甲斐しく食事の世話をされた事を思い出していたらしい、だが態度にこそ現れていないが心の片隅では相手に対する感謝の念が無い訳では無い、食事の世話は屈辱や羞恥を大英帝国に与えたがそれと同時に大日本帝国への仄かな好意を芽生えさせた、その事を理解していたながら認めたくは無くて舌打ちを一つした大英帝国はこれからの事を考える、両手が使えない今相手の助けが無ければ殆どの事が出来ない状態だ、普段ならこれから風呂に入る所だが相手の助けを借りてまで入る必要性は感じない、骨折がいつ治るのか分からないが国なのだから一週間もあれば完治するだろうその位の間風呂に入らなくても別に死ぬ訳ではない、そう考えて英帝は深く溜息をついたその時部屋の扉が勢い良く開かれる、開けたのは大英帝国の眉間の皺の元凶大日本帝国だ、漆黒の軍服を身に纏った彼は大英帝国を見るとにこりと上機嫌に笑う、嘲笑や冷笑しか見た事の無い大英帝国にとってはそれは背筋がぞくりとする程不気味に見えた

「さあ大英帝国、構えなさい」
「・・・あ?」
「湯殿に行きますよ」

言われた言葉に大英帝国が動きを止める、食事での一件以来大日本帝国はすっかり大英帝国の世話を焼く事に味をしめてしまったらしい上機嫌の彼とは対照的に大英帝国は不味いものでも食べてしまったかのように顔を壮絶に顰めてみせた

「寝言は寝てから言え、俺は行かない」

ふい、と顔を背ける英帝を見て日帝はくすりと笑う

「そのまま意地を張り続けて腕が治るまで風呂に入らないつもりですか?異臭を放つ人と生活なんて私、真っ平御免です」
「黙れよ、誰が好き好んで爺なんかと風呂に入るか」
「おやおや嫌われたものですね、ならばこうしましょう、このまま風呂に入らないと言うならば私は今後一切貴方に手を貸しません、食事も何もかも全てご自分でなさって下さい」
「・・・チッ」

そう言われると大英帝国は渋々立ち上がる、流石にそれは堪えるようだ、嫌々だが自分の言う通り行動する英帝を見て日帝は上機嫌に笑う、この男を顎で使える状況はたまらなく面白い普段は売り言葉に買い言葉で手が出て足が出てまともに会話した事等無かったが話してみれば存外分かり合えない訳では無さそうだ、最もそれは負傷し己よりも不自由な状態に置かれた上自分無しでは碌に生活出来ないという異常事態に限っての事かもしれないが、自分よりも先に歩いて風呂場へと向かう大英帝国の背中を見ながら大日本帝国は心中で呟いた





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脱衣所についた大日本帝国は素早く大英帝国の衣服を脱がせ腰にタオルを巻き付ける、服を脱がす過程で僅かに染まった顔を隠す様に大英帝国は扉を蹴り開け早々に風呂場へと歩いて行くその背を見送った後大日本帝国も己の衣服を脱ぎ腰にタオルを巻き付けた状態で風呂場へと足を踏み入れた、ただっ広い浴室の片隅のシャワーがずらりと並んだスペースの一つに大英帝国は椅子に腰掛け大人しく座っている、まるで待てと言われて忠実に飼い主の言いつけを守る犬のようだと大日本帝国はいつになくしおらしく見える男の様子を嗤った、松葉杖をついて男の元まで行くと大英帝国はさっさと終わらせろ、と不遜な口調で言うのが可笑しくてたまらない、世話される立場に甘んじるの嫌なのだろう、最も口調で反抗してこようがそんなものただの強がりだと大日本帝国は理解している、善処します、と言って日帝はバスグッズ一式と椅子を大英帝国の後ろに持って来てそこへ座るとシャワーのノズルを捻り適温のお湯を英帝の上からかけ大英帝国の髪を洗い始める、わしゃわしゃと泡立てながら丁寧に髪を洗いお湯で流す、いつも刀を振るう手とは思えない程のやわらかな手付きに大英帝国は戸惑う、普段獲物を交わらせるのが当たり前の相手に世話を焼かれる違和感は相変わらずだがそれを上回る気恥しさがやはり勝って顔に熱が集中していく、どんなに機嫌の悪い振りをしてもその赤みは誤魔化せない食卓を挟んで食事をした時と違い向い合っていない状況に英帝は人知れず感謝していた、けれど日帝からしてみれば例え顔が伺えずとも耳の赤みで今の英帝が大凡どんな表情をしているのか予想出来るので無意味ではあったが

頭を洗った次は身体だ、流石にこれは自分以外が触れるのに抵抗があるらしく英帝は怪訝そうな顔をしたが日帝は無視して洗い始める、相変わらず優しげな手付きでボディソープをたっぷり纏ったスポンジが英帝の背中を滑る、身体をスポンジが行き来する度に英帝にはぞわぞわと筆舌し難い感覚に苛まれる嵌めになる、早くしろと後ろの日帝に悪態をついても控え目な笑い声が返ってくるだけで速度は変わらない

「おい」
「何です?」
「東洋の猿は人語も理解出来ないのかよ」
「ふふ、ではその猿に世話される貴方は猿以下ですね」

本気の悪態では無い証拠に言葉と裏腹に互いの表情はいつもより穏やかだ、英帝は気まずさを紛らわす為に日帝は形式的に言葉を重ねたに過ぎない、気まずさを紛らわすのに悪態をつかなければならない英帝の事を不器用だと思いながら日帝は手を動かした、シャワーを使い泡を洗い流せば次は前だだが今の状態では洗いにくいだが後ろを向けと言った所でどうせ反抗するであろう英帝を見越して日帝は後ろから手を伸ばし英帝の身体を洗う、計らずともまるで片手で抱きしめるようになってしまった体勢に英帝の羞恥心が一気に膨れ上がる、常に無く近い距離に脈絡も無く鼓動が速くなった、何がそうさせているのか分からないまま英帝は日帝に身を預けされるがままだ、半ば茫然としていた為仕方の無い事だったがそもそもこの男相手に茫然と出来る程の隙を見せてしまった自分が信じられなくて英帝は舌打ちをするその不機嫌な顔は日帝が身体を全て洗い終え英帝が部屋に戻っても変わる事は無かった

「おやおやかわいらしいこと」

対する日帝は先程の英帝の様子を思い出しくつくつと笑う、身体を洗う最中赤く染まっているであろうと思っていた顔は予想通りで洗い終わった後有無を言わさず風呂場を後にした英帝の行動は日帝を楽しませた、武器を握れない身体になればこんなにも普段と状況が違うものかと日帝はしみじみと思い、若者からかうのが癖になりそうだとまた英帝の様子を脳裏に再生しながらくすりと笑った





2011.09.27





あとがき
(日帝→上機嫌、英帝→不機嫌な状態が続きそうですね、少なくとも英帝の腕が治るまでの間は)