「すきです」
「ああ・・・」
「すきです、アーサーさん」
「俺もだ、菊」
私が両手で貴方の頬を挟んで唇同士が触れ合うすれすれの所で呟いた言葉に貴方はいつものように顔を赤らめる事も
動揺して天の邪鬼な事を言ってしまう事もせず、切なげに緑の瞳を細め私を見詰めてただ返事をする、ああお互い
じゃれあうようにして過ごして来たあの日々が幻のように思える、あの日々がこんなにも遠く感じるようになる事など
あの時はこれっぽっちも考えはしなかった、いや考えないようにしていた。
わんわんと蝉が鳴く声が辺りに反響する、夏の昼下がりだというのにちっとも暑くない、寧ろ私の体はどんどん
その熱を失ってもう凍えてしまいそうだ、寒い、ただ彼に触れている手だけは彼の熱を借りて暖かい
彼の手が私の頬を滑る、そこから伝わる冷たさに彼もまた凍えそうな程寒いのだろうと思った
「菊・・・」
目と目が合って彼の意思を読み取った私は静かに目を閉じた、ただ触れるだけのキスいつものような激しさや粘着質なものではなく酷く優しいそれに私は困惑した、そしてまたもうあの頃のようにはいかないのだとまざまざと現実を突きつけられて胸がズキリと痛む、もう幾らでも痛めば良い、それが目の前の彼に与えられたものなら何でも喜んで受け入れよう、唇が離れてアーサーさんの方を見れば酷い痛みに耐えるような表情をしている
「なあ、菊・・・!」
私は言葉を紡ごうとしたアーサーさんの唇に人差し指を置いて言葉を遮断する
「抱いて下さい、アーサーさん」
「良いのか」
「ええ、何なら壊して下さっても結構です」
そう言うとアーサーさんは泣きそうな顔をして今日会って初めて感情を込めて叫び
「馬鹿ッ・・・!」
私を床に押し倒した
場違いにどこかでちりん、と涼やかに風鈴が鳴っているのが聞こえた
2011.08.17
あとがき
(同盟失効直前の二人のやり取りでした、もっと淡々としたものにするつもりでしたがあれ、れ・・・?)