密林の中一際開けた地面が剥き出しの場所が俺達の再開の場所だった、じりじりと照り付ける日差しの下走り回った所為で大分体力を使った喉の皮が貼り着く感じがして気分が悪い、額から顎まで伝う汗を右手でぐい、と拭う、日本は俺と対照的で真っ白な軍服と同じように涼しげな風貌だ、白い軍服、白い手袋、汚れると目立つ筈のそれは泥一つついていなくて俺は急速に口の中の水分がなくなっていくのを感じた、ああ、熱い、喉が渇く、正直日本と戦った事が無いから相手の力量の程が分からない、それでもその出で立ちからかなりの実力の持ち主なのだろう、そうでなければ掠り一つなく平然とここに立っていられる訳がない、らしくもなく緊張している自分に自嘲を浮かべ俺は大きく息を吐き吸ってそして一瞬で相手に照準を合わせ引き金を引いた
パン!!
躊躇っていたらこっちがやられる、決断は早い方だこうと決めたら俺は迷わない、だが先制攻撃になる筈だったそれは予想通りに避けられる、接近された終わりだ、俺の手持ちはハンドガンとナイフ相手は日本刀、装備の差は勿論、俺自身近距離戦闘は苦手だ、拳での勝負ならともかく武器を持っての戦闘では俺は昔から飛び道具を使っている、間合いを詰められないように俺はバックステップで距離を取る
「なっ!?」
後ろを確認するため一瞬だけ視線をやり相手の動向を確認しようと視線を再び前に向けると予想外に近い距離に日本の顔があり俺は目を見開いた、さっきまで俺と日本の距離は10メートルは優に超えていた筈なのに今ではもう1メートルも離れていない
「クソ!!」
幸いな事に日本はまだ鞘から日本刀を抜いていない舌打ちまじりに俺は日本の手を狙い引き金を引く、発砲音の後ヒュン、と空を切る音がまず聞こえた、音の後日本の右手が煌めく銀の刀身を持った刀を持っているのを見て俺はやっと日本が鞘から刀を抜いた事に気が付いた、俺は日本が抜刀する所を視認出来なかった気付いたら日本の手に刀が握られたようにさえ感じられる、どんだけ素早いんだこいつは、それに銃弾はどうなった確かに俺は日本目掛けて引き金を引いた筈なのに相手は避ける素振りも見せなかった、一体、弾はどこに行ったんだ、その時ふと地面がきらりと光り俺はそこに目を向け愕然とした、地面には静かに真っ二つに切断された銃弾が転がっている、日本は避けなかった、切ったんだ、至近距離から放たれた高速の弾丸を、それはもう見切りというレベルじゃない俺は日本を素早いと思ったが最早そんな言葉では片付けられない領域だ、神速、神の速さ、頭を過ったのはこの言葉だった、神という最大の強調表現をこんなに安易に使ってしまう程日本のそれは人離れしたものだ、これは分が悪いという話じゃない、接近戦じゃ俺は相手にならない、だったら―
「!?」
俺はブーツの先を思いっ切り地面に食い込ませて勢いよく足を振り上げる、巻き上がった砂に日本が目を庇った隙を突き俺は近くにあった茂みに身を潜ませる、幸いここは密林だ密集した木が生えた場所での戦闘は嫌って程体に叩き込まれている、圧倒的な相手を前に力も武器もなかったあの頃身を潜ませながら必死に生きる為戦い抜いた経験がこんな形で役に立つとは俺自身思ってもみなかった、遠距離武器はこういう場所でこそ本領を発揮できる、俺は木の陰に隠れながら日本と互角に戦う為に必要だと思われる距離まで離れると膝を立てしゃがみ息を殺して相手の動向を伺う、日本は慎重に周囲を警戒しながら密林の中に足を踏み入れた、俺はゆっくりと確実に日本に照準を合わせ引き金を引く、乾いた音が密林に響くと同時に日本が一瞬びくりと体を震わせその場にどさり、と倒れる、銃での戦いなんてこんなもんだ長引いた割には終わりは実にあっさりしている、俺は大きく息を吐いてその場から立ち上がると日本の元へと歩み寄る、国の象徴を捕らえたとなればこちらの士気は一気に上がるだろう、良い手土産が出来た、近づくにつれ日本の様子がはっきりしてくるそれと同時に罪悪感がふつふつと込み上げてきた、俺はいつだってそうだ戦いの間は生き残る事、つまり戦いの事しか考えて無い問題はその後だ勝ち負けがはっきり分かった時、戦いの事以外を考える余裕が出来た時俺は弱くなる、そいつと過ごした日々を急に思いだして一人で勝手に感傷的になる、日本との同盟は短かったけれどずっと一人だった俺にとってはかげがえのない日々だった、嘗て相棒と呼び親しんだ相手とこうして本気で殺し合う関係になるなんて最高の皮肉だな、ざりと地面を踏みしめ俺はふと日本を見る、くそ!!はめられた!!!!
「ッあ゛!!」
思ったと同時に腹に鋭い痛みが走る、日本は怯んだ俺に切りかかろうと刀を構えるがこっちだって黙ってやられる訳にはいかない、太ももに固定してたホルダーからナイフを抜き取り刀を受け止める、ガキィン!!と金属が触れ合う音が響きギリギリとお互い力比べのように鍔迫り合いが続く、日本は撃たれたふりをしていた、いや正確に言うなら日本も脇腹から血が流れているから撃たれていたのだろうでもそれは気を失う程のものじゃない、倒れる日本を見てその出血の少なさから俺は異変を感じ取りすぐ対応出来たがこれがずっと過去の回想を続けて日本の様子に気付けなかったら今頃どうなっていただろう、考えると冷や汗が吹き出す、しかし見事に罠に嵌ったもんだ大凡俺の行動は日本の思惑通りだったろう、態々自ら日本の前に姿を現してしまった、どうするまた目くらましか、だが真っ直ぐに俺を射抜く漆黒の瞳がもう小細工は通用しないと俺に語りかけてくる、俺自身二度同じ手が通用するとは思っていない、早く日本の攻撃範囲内から抜け出さないと、
負ける、せめて日本が武器を持っていなければ、そうだ、武器が無ければ良い、残る銃弾は後4発、勿論リロード用の弾はあるがそんな事をしている暇はない、成功はするかどうかは女神のみぞ知る、大丈夫だ、きっと上手く行く、暑さの所為だけではない汗が額から頬を伝い落ちる、俺はナイフを持つ方とは逆の手でハンドガンに手を伸ばす、それに気付いた日本も日本刀を片手で持ち、左手を下に向けるといつの間にかそこには脇差があって俺は驚いた、どうして脇差があるのか考えるより先に俺は左手向けて振り下ろされる小刀から逃れる為に空いていた足で日本の足元を払う、日本は一瞬バランスを崩したが片手を地面につきひらりとすぐに体勢を整えてみせた、だがそれにより日本と俺の間に1メートル程の距離が生じる、そうあの時の間合いと丁度同じ位だ
パン!!
まずは一発、相変わらずの速度で日本はまた銃弾を叩き切ってみせた、だがそんな事は俺だってもう分かっている、続けて2発目、これも切られた、3発目も結果は同じだ、最後の一発お前に全てかかってる、頼む、どうか
「Fortune!! Smile for me !!!」
パン!!
「ッ!?」
同じモーションで日本は銃弾を切ってみせたが日本刀は何発も撃ち込まれた銃弾に耐え切れずキィン!!という甲高い悲鳴を上げて根元近くから折れた、自分が渇望した展開に思わず喉が鳴る、幾ら日本刀で銃弾を切れると言っても限度がある立て続けに銃弾を撃ち込めば折れるとは思ったが4発で折れるかどうかは賭けだった、女神はどうやら俺に微笑んだらしい、脇差とナイフならまだ勝機はある、俺は日本にナイフを振り上げると折れた日本刀を躊躇いもなく捨て脇差を構えると相手もそれに応戦する、ギリリ、と金属が耳障りな音を立てた、拮抗する力、だがそんなもの囮に過ぎない俺は日本の隙だらけな脇腹目掛けて蹴りを叩きこむ、が、日本も黙ってやられる筈はなく左手で俺の蹴りを受け止め俺の力が緩んだ隙に脇差を喉元めがけて真一文字に振るう、間一髪俺はそれを避けたが今度は日本の蹴りが俺の喉元目掛けて飛んでくる、それを腕を交差させる事で防ぎ今度は仕返しとばかりにその足を持ち体勢を崩そうとしたが日本は体をひねりもう片方の足で俺の手を蹴りあげそこから逃れる一進一退の攻防は終わりが見えない、俺も日本も軍服が血と土まみれだ、流れる汗で貼り着くシャツの感触が気持ち悪い、お互い肩で息をしながらも集中力は切らさない、切らせない、相手の攻撃を防いだ隙を突きこちらが攻撃の繰り返し、終わりが見えないそのやりとりに焦りが募る
「はあ、くそ・・・」
増えていく切り傷に比例して体力が減っていく、口の中はもう既に血の味しかしない俺は口内に溜まった血を唾ごと吐き出す、考えろ、今のままじゃ絶対だめだ、だったら少し趣向を変えてみるしかない、日本は容赦なく俺目掛けて脇差を突き刺そうとしてくるが俺はもうそれにナイフで応戦する事はせず脇差をぎりぎりの所で避けると日本の腕を掴み一瞬で捻り上げる、単純な力の勝負では俺に分がある日本は苦しげに息を吐いて脇差を手から落とすすかさず俺はそれを蹴り日本の手に届かない所まで移動させた、しかしその瞬間腹に鈍い痛みが走り俺は思わず日本の腕を解放してしまう、左腕で肘打ちされたと気付くのにそう時間はかからなかった、よろけた所にダメ押しに腕を掴まれそのまま一本背負いで地面に叩きつけられる、背を強かに打ち付けて、かは、と口から空気が漏れた、日本は俺の腕を容赦なく踏みつけると痛みで俺はナイフを取り落とす、先程の意趣返しにそれを手の届かない所まで蹴り飛ばされたがただで終わる訳にはいかない、蹴る瞬間片足だけで全体重を支えている日本の足を俺は蹴り飛ばすと日本も同じように地に倒れ込む、日本の上に俺は馬乗りになると鳩尾へと拳を振るうが至極あっさりと日本に受け止められその勢いのまま再び日本に投げ飛ばされる事になる
「くッ・・・!」
今度は上手く受け身が取れず頭を打ち付けてしまい脳が揺れる、くらくらとした感覚が止まらないうちに日本は俺と同じように馬乗りになり腰のホルスターに挿してあるハンドガンを奪う、お互いの吐く息の音が酷く大きく聞こえる、日本の持っているハンドガンには勿論弾は入っていないさっき俺が全部使ってしまったしリロードの弾は俺のポケットに入っている、だからハンドガンを奪われた所で俺は痛くも痒くも無い、それを知らない日本は心なしか顔を強張らせて銃口を眉間に押し当てる、どうやら一気に勝負をつけるつもりらしいその潔さは相変わらず好感さえ持てるがもう少し慎重になるべきだったな、白い手袋に包まれた指がゆっくりと引き金を引く日本は瞳を一旦閉じて再び目蓋を開ける、覚悟を決めた顔だ、眉間には皺が寄り、影になっている所為で濃度が増した漆黒の瞳はいつもより険しい、こいつがこんな風に感情を素直に表に出すのは珍しいと俺はふと思った、穏やかだがどこかぼんやりとした普段の顔よりも余程良い同盟時代には見る事の出来なかった日本の一面を見て少し以前よりも日本の事を理解出来た気がする、それが戦いの中だというのが少し惜しいが
ガキン!
日本が引き金を引いたけれど弾は出ない、日本はそれに目を丸くした続けざまに引き金を引いたが結果は同じだ、その間に俺は日本の視界になるべく入らないように傍に落ちていた折れた日本刀を手に取る、柄と10センチメートル程の刃しかないそれでも何も武器を持たないよりは大分マシだ、俺は腹筋を使い上体を起こすと首を狙い日本刀を突き刺そうとするがすれすれの所でそれは避けられ掠るだけに終わる、相変わらずの反射神経だ、けれど戦いによる疲労の色は隠せない、あの反射神経を誇る日本に掠っただけでも大した功績だ、日本の左首筋には一直線に切れ目が入りそこからじわりと血が滲む、白い肌を汚す赤色に仄暗い優越感を感じて
俺は再び日本刀を構える、けれどそれは日本に叩き込まれた手刀でからん、と音を立てて地面に落ちる、それを拾おうと地面に手を伸ばしても俺より先に日本の足が刀を蹴り自分の方へとそれを移動させ拾い上げる、再び主の手に戻った日本刀は俺が握っている時よりも刀身が煌めいて見える、振り下ろされるそれを俺は避けず刀を持つ日本の手を両手で掴み防御する、そのまま捻れば日本は呆気なくそれを取り落としたのですかさず俺はそれを手に届かぬ所へと蹴り飛ばした、これでお互い持っている武器はゼロ、だったら戦う方法なんて決まっている、ここからはこれまでの遅れを取り戻して見せる、俺は日本の首の後ろに手を回す、その行動に攻撃の意図は含まれておらず自分が予想した以上に柔らかな動作になった為日本は一瞬きょとん、とした表情を見せる、だがその隙に俺はありったけの力を込めて日本の頭へ自分の頭をぶち当てた、頭突きは日本にとって想定外の事だったらしく避ける素振りは見られなかった、衝撃にぐらと傾いた体に俺は拳を堅く握り腹を殴る、日本はごほ、と苦しげに息を吐き出し再び俺は拳を突きだすが日本だってやられっ放しじゃないパシン、と俺の手を受け止めるとすかさず俺に殴りかかる、けれど俺もそれを受け止めるとお互い譲らぬ力比べにもつれ込む、それは俺にとって願ってもいない展開で俺は力任せに日本を押すとその体は地面へと倒れ込むかと思われたが日本はくるりと回転し器用にも立ち上がってみせた、そこからはただひたすら肉弾戦だ、日本は俺を背負い投げようとしきりに襟や軍服を掴んでくるがワンパターンなその行動に俺は簡単に対処方を思いつき数十発程日本の体に拳を叩き込む事が出来た、勿論俺だって日本に数発は拳を叩き込まれている、殴られた頬や腹が今もずきりと痛む、お互い地面の上でもつれ合い殴りあっていた為軍服はもう泥だらけだ、荒く肩で息をしながら俺は対峙する日本を見遣る、日本は俺よりも呼吸が激しくぜえぜえと息を吐きながら上体を屈めている、最初は純白に輝いていた軍服は今や泥だらけで見る影もないけれど日本のその瞳には相変わらず輝きを失わない、不利な状況で尚輝くその瞳の中にある気高さを俺はなんだか無性に穢してやりたくなった、止めを刺すつもりで俺は日本の腹に殴りかかるが日本はそれをしゃがむ事によって避け俺の衣服をまた掴む、疲れの所為で単調になった攻撃に俺は内心冷笑を浮かべその鳩尾に膝を叩き込む、急所にモロに入ったらしく日本は顔を歪めその場に膝をつく、俺に跪いているようなその格好に口角が上がる、これはもう決定的だろう、長かった戦いに終止符を打つのが俺の勝利という形ならこれまで苦戦を強いられてきた時間も勝利を彩るスパイスに思える、だが油断してはいけない、日本が何をしてくるか分かったもんじゃない、けれどお互い武器は出し尽くしているのだから日本が出来る事など限られている、この状況を引っ繰り返す事など最早不可能に等しい、さあ、どうする?俺は攻撃の手を休め日本の動向を探る、と言っても俺には日本の頭しか見えない状況だが
日本は立ち上がろうと足に力を入れるが弱った体にはそれすら辛いのかふらふらとよろけるようにして数歩後ろに下がる、俺と日本の距離はその為5メートル程空いたが数秒で詰められる距離だ何てことはない、日本はゆっくりと顔を上げる、その表情は濃厚になった敗北の気配に歪んでいると俺は思っていたがその顔を彩っていたのは悲しみでも怒りでもなく
「お前・・・」
笑み、だった
唖然としてその表情を見詰める俺は動けずに日本の動作をただ目で追う、日本の右手は己の懐へ潜り何かを掴むとゆっくりと取り出される、その動作は銃を取り出す動作と酷似していた、そうだ銃、俺の銃はどこに行った、日本に奪われてそれから、有耶無耶になっていたそれを漸く思い出し俺は冷や汗をかく、まさか、まさか、まさか!!慌ててポケットの中に手を突っ込む、無い、弾が無い!!あった筈のリロード用の弾は俺のポケットの中から姿を消していた、そして日本が酷く緩慢な所作で取り出したのは、紛れもなく、俺の銃だった、日本があんなに俺に掴みかかかり、単調な攻撃を何回も、怪我をするリスクも顧みなかったのは、俺が持っているかもしれないハンドガン替えの弾を探す為・・・これで全てが繋がった、自覚した途端俺は凍りついたように動けなくなる、だったら、今、今まさに日本の手に握られている銃には、
「王手」
パアン!!
密林に銃声が響く、灼熱の塊が体を貫くのを感じて俺は意識を飛ばした地に倒れる瞬間見た日本の表情は鬼のように恐ろしい綺麗な笑みだった
あとがき
(泥臭い感じが出ていれば良いのですが、本当俺得文すみません、戦っている話が好きなのでついつい書いてしまいました、ちなみにイギリスが英語で何やら叫んでいた文を訳すと『運命の女神よ!!俺に微笑んでくれ!!!』になります、多分。シリアスに見えれば幸いです本人は所々心の中で吹きながら書いていたのでシリアスというよりはシリアルかなあと思っていたりもしますが)