キン、と張り詰めた空気ではなくストーブによって適度にぬくもった空気
独特の香りを嗅ぐとああ今年も冬が来たのだと実感出来る、私が冬を感じるのは
寒さでなくこの香りを嗅いだ時だった
今ではもう滅多に見られなくなった石油ストーブの上でやかん
がしゅんしゅんと音を立てている
一人その音を聞きながら私は今日も夜食卓に一人腰掛け年賀状を書く
パソコンを使えばあて名書きなどものの数秒で終わってしまうが私はあえて手書きで毎年それを書いている、確かにパソコンの方が便利ではあるがやはりそれによって印刷された活字は無機質であたたかみが無い、人の手によって生み出されたものと機械によって生み出されたものではやはり温度が違うのだ、友人にそれを話せば、お前って年寄りみたいな事言うんだなと言われた、全くその通りだったので私は笑った。
夜も深まりストーブをつけていてもその前に行かなければ充分に暖をとれなくなってきたので私は首にマフラーを巻いた、この白いマフラーは彼の手編みで去年の私の誕生日に彼がプレゼントとして渡してくれた物だ、綻びが一つもない美しい編み目、彼が手づから編んでくれたという事実が体だけでなく心までもあたたかくしてくれる、そう言えば彼は今頃何をしているのだろうか、年末なのでお互い忙しく最近全然会えていないが今無性に彼に会いたくなった
「アーサーさん・・・」
呟く声に答えるように玄関のチャイムが鳴る、誰だろうこんな深夜に、恐る恐る玄関のドアののぞき穴から外を見てみれば飛びこむ金と緑、急いで私は扉を開ける
「アーサーさん!?」
「あ、菊ごめんなこんな夜中に」
「い、いえ、まだ起きてるつもりだったので大丈夫です、アーサーさんどうかされたんですか?」
「ああ、ちょっとな・・・」
妙に歯切れ悪く言葉を紡ぐ彼の顔が寒さで赤くなっているのに気が付き私は思わず頬に手を伸ばし触れてみるとそこは氷みたいに冷たくなっていて目を丸くした
「何があったのかは中で聞きますので散らかっていますが取りあえず中にお入り下さい、暖かい飲み物お出ししますよ」
いつまでも彼を外に立たせておくわけにはいかなかったので私は玄関のドアを閉め彼を中に招き入れるが彼は玄関から動こうとしない
「俺はここで良い」
「な、何言ってるんですか、外寒かったでしょう?暖まっていって下さい」
「だ、大丈夫だ、外に比べたらここは天国だしな」
「・・・何か、中に入りたくない理由でもあるのですか?」
言うとアーサーさんはビクリ、と体を震わせたどうやら図星のようだ、けれど私は何故彼が頑なに中に入ろうとしないのか分からない、じ、と彼の目を見詰めれば彼は私から視線を逸らした
「い、いや、入りたくない訳じゃない!でも俺は入ったら駄目なんだ」
「あのでしたらアーサーさんはここへ何しに?」
「それは、その・・・急にお前に会いたくなって気付いたら体が勝手にだな・・・」
「・・・ッ!!あ、あなたって人は・・・!」
赤面した二人が落ち着きを取り戻し再び部屋に誘う菊とそれを断るアーサーの言い合いに隣に住むルートヴィッヒが呆れて注意に来るまで後もう少し
あとがき
(枢軸は同じマンションに住んでいる設定、アーサーが菊の部屋に入らないのは入ったら最後菊に何をするのか分からないので理性を総動員して部屋に入るのを断っています)